第3話筆頭公爵令嬢


メディーナ・リ・コルキウス公爵令嬢。


彼女は、コルキウス公爵と王女殿下との間に生まれた一人娘であった。

コルキウス公爵家はサリア王国の筆頭貴族であり、王国の三分の一の領土を有していた。

公爵領は国有数の鉱山を持っていたが、歴代の当主は領主として優秀な者が多く、鉱山頼みにはせず、農業や牧畜、工場などに力を注いだお陰で、公爵領は王国一の資産を有するまでになっていた。

公爵領は王都から離れていたが、その豊かさと大陸の交通の要所的立地のため「第二の都市」として栄え発展している。既に独立国家として十分やっていけるのだが、初代国王の王姉を祖にしているためか、王国からの独立意識は低かった。


コルキウス公爵家の令嬢と王太子が婚約したのが十年前。同じ歳の二人は僅か六歳であった。

初めて紹介されたのが王宮の中庭。

季節は五月。王宮のバラの花が咲き誇る中での小さなティーパーティーは、見事なまでにお膳立てされた「お見合い」であった。




「初めまして、メディーナ嬢。僕はイアン・デル・サリアだ。君とは従兄にあたる。今日は非公式の場だから気楽にして大丈夫だよ」


金髪に青い目をした絵本から飛び出したかのような王子様ぶりである。


「エリオル・リ・コルキウス公爵が第一子、メディーナ・リ・コルキウスと申します。イアンにお会いできて光栄です」


対するメディーナも負けてはいなかった。

公爵令嬢として申し分ない挨拶である。

ただ、メディーナは母親と同じようにイアン王子にカーテシーはしなかった。


「メディーナ嬢、今は非公式だから僕は気にしないが、今度から王族には『カーテシー』をしなければならないよ」


「まあ!そうなのですか?お母様と叔父様が必要ないと仰っていましたから…てっきり『カーテシー』は不要なのかと思っておりました」


「えっ!?公爵夫人と父上が?」


「はい」


「本当に言ったのかい?」


「はい。イアン王子はので必要ないと仰っていましたわ」


「そう……メディーナ嬢、父上たちは他にどんなことを言っていたかな?」


「お母様は、公務がまともに出来ない王妃に下げる頭はない、とも申していましたわね!それと後ろ盾にない血筋の卑しい王子に挨拶は出来ない、と仰って叔父様がお母様に何度も謝っておられましたわ。

叔父様は何か悪い事でもなさったのかしら?優しいお母様があんなに怒るなんて……」


無垢な声が風に乗って周囲にも届く。

傍に控えていた侍女も侍従もイアン王子の表情が変わった事に気付いた。


「ああ!ですが最後はお二人とも仲直りなさったようですわ!叔父様がこれでイアン王子を王太子に出来ると喜んでおりましたもの!」


無邪気な残酷さとは、この事だろうか。イアン王子の何かに耐えるかのような表情も、侍女や侍従が真っ青になりながらも一歩も動くことが出来なかった理由もメディーナは知らない。気付かない。王都から遠く離れた公爵家で育ったメディーナは王宮の闇も王都の貴族たちの声も届かないのだから。

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