第14話 迷子の魔法



結局寝付けなくて、ママにホットミルクを作ってもらおうと思った。

ママのホットミルクは蜂蜜入りで、飲むと体がほんわか暖かくなる。

寝つきの悪い時にはよく作ってもらっている。

リビングに向かって、そっと階段を降りていくと明かりと話し声が漏れていた。


「本当に先生がそう言ったの?」


「確かに言ってたよ。

“あの辺りは先生も探したし、親御さんも探したはずだったんだけど、、、何で見つからなかったんだろう?“って、、、。」


パパがママに今日のことを話していた。


「この前、詩織の部屋から魔力を感じたの、、、。」


「やっぱり詩織が奥田くんに魔法を掛けたんだね、、、。

奥田くんが迷子になったのは詩織の魔法が原因なんだろうね。」


魔法?私が魔法を掛けた?

理解できない話の中で、1つだけ私にもわかったことがある。


「パパ、ママ、奥田くんが迷子になっちゃったのは、、、私のせいなの、、、?」


言葉と共に涙が溢れていた。

頭も、気持ちもごちゃごちゃで、何が何だかわからなかった。


「詩織!!??」


「寝てたんじゃなかったのか!!??」


突然現れた私に、両親が駆け寄る。


「眠れっなくてっ、、、。

ママにっ、、、ミルクっ、、、。」


しゃくりあげながら自身の状況を伝えようとするが、もう言葉よりも涙のほうが多く溢れるのを止められない。


「ごめんね、ごめんね、詩織!!!」


私を抱きしめるママも泣いていた。






次の日、私は学校を休んだ。

パパも仕事を休んでくれて、ママと3人で話すことになった。

ソファーで3人横並びになりながら、ママが少しずつ話し始めた。


「詩織、驚かないで聞いてほしいんだけど、ママね、魔女だったの。」


「魔女って絵本に出てくる?」


お菓子の家が出てくるお話、お姫様が毒林檎を食べさせられてしまうお話、読んだことのある魔女の出てくるお話が頭に浮かぶ。


「そうよ。

ここじゃない、魔女や魔法使いがいるところからママは来たの。」


「パパがね、魔女の世界からママを連れてきてしまったんだよ。」


両親のカミングアウトに固まる。

ママは人間じゃなかった。


「今はもう、魔法は使えないんだけどね。

でも誰かが魔法を使うとわかるの。

あ!今近くで魔法を使った人がいる!って。」


ママの横顔はちょっと寂しそうだった。


「この前、詩織のお部屋にママが急に入ってきたことがあったでしょう?

あの時ね、魔法の力を感じたの。

詩織のお部屋から。」


あの時のママの慌てた様子を思い出す。

私が魔法を使ったと思ったんだ、、、。


「詩織だけが奥田くんを見つけられるのはね、そういう魔法を掛けちゃったからかもしれないの。」


やっぱり私のせいで奥田くんは迷子になっちゃったんだ、、、。

また出そうになる涙を必死で引っ込める。

握りすぎてシャツの裾がシワシワになった。


「詩織は魔法の練習してないでしょう?

だから完璧な魔法じゃないの。

たまーに奥田くんが迷子になっちゃうの。」


ママは本来の魔法についても話してくれた。

魔法を掛けられた者は永遠に目的地に到着出来ず、彷徨い続ける。

見つけられるのは掛けた者のみなので、人質のような存在に出来るらしい。

ただ、魔法が不完全だから迷子になったり、ならなかったりしてるみたい。


「どうしたら魔法が解けるの?」


魔法が解ければ、奥田くんは迷子にならなくなると思った。

私にそう聞かれたママの顔は、今にも泣きそうな顔だった。


「魔法の世界に行って、魔法の使い方を詩織が覚えないと解けないの。

でもね、魔法の使い方を覚えるのはとっても大変なの。

危ないこともいっぱいあるの。

それに、、、ママはもう魔法が使えないからあちらには行けないの、、、。

詩織を魔法の世界に連れて行ってあげることも出来ないの、、、。」


ママの目からボロボロ涙が溢れた。


「ごめんね、詩織。

ママが魔女だから詩織に嫌な思いさせちゃってるね、、、。

ママのせいで、ごめんね、、、。」


貰い泣きした私と、泣き止まないママをパパが二人同時に抱きしめていた。



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