第212話 07:ライバルと、
あたし起床!
今日は、なんだか世界を変えられそうな気がする!
目を覚ましたゆいは、バサァッとカーテンを開いて太陽の光に目を焼かれる。
「ああぁぅ、目がぁ、目がぁぁ……」
すっかり元気を取り戻したゆい。
とてとて洗面台へ向かって、
「あっ」
「……ん?」
そこで同じく起床したばかりのみさきとバッタリ。
「……」
「……」
みさきを睨むゆい。
なに? と首を傾けるみさき。
「あたしが先!」
ゆいはみさきの前に身体を入れて、サッカー選手がボールを奪うみたいに洗面台を使う権利を強奪!
みさきは素直に順番を譲って、静かに待った。
みさきに競い合う気はない。
ゆいは顔を洗って、歯を磨いて、スッキリした表情で振り返る。そしてみさきにピシィッと人差し指を伸ばした。
「あたしの勝ち!」
これが朝の出来事。
この日、ゆいは何度も勝利宣言をした。
例えば登校。どちらが早く校門を超えるか。
次は教室。どちらが早く席に座るか。
もちろん授業も。どちらが多く挙手するか。
給食。どちらが早く食べ終わるか。
下校。どちらが早く家に帰るか。
宿題。どちらが先に終えるか。
夕食。トマトが出たので無効試合。
歯磨き。どちらが先に磨くか。
お風呂。どちらが先に入るか。
お布団。どっちが先におやすみするか!
「トマトさえなければ全勝だったのにぃ……っ!」
お布団。
本気で悔しがるゆいは、バタバタしていた。
「……」
しばらくして大人しくなるゆい。
枕に顔を押し付けて、ギュッと両手に力を込める。
ゆいの握力は普段よりも一桁も強かった。
普段が8キログラムで今が10キログラムになった程度の些細な変化だが、一桁も強くなったと表現すれば、なんだか凄味がある。
相対評価において、ゆいは急成長していた。その根底には、みさきに勝ちたいという純粋な思いがある。
昨夜、ゆいは龍誠の前で演奏をした。
みさきに勝ちたいと宣言して、課題曲を演奏した。
ぶっちゃけ過去最高の出来だった。
一方で、みさきは――まるでゆいなんか眼中に無いみたいに、あのとき爆発した感情が嘘だったみたいに平然としている。
それがゆいにとっては屈辱だった。
まずは、みさきにライバルだと認めさせてやる!
「……勝ちたい」
ぽつりと、ゆいは無意識に呟いた。
「……ピアノだけは、勝ちたい」
それは大切な思い出。
絶対に譲れないもの。
10歳の少女とは思えないほどの強い感情が、ゆいの中で大きく大きく育っていく。
みさきに届ける。
みさきを焦らせる。
みさきを本気にさせる。
そのうえで、みさきに勝つ!
龍誠との練習をきっかけに、ゆいの目的は明確になった。一方で、みさきは――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます