第186話 SS:ママがけっこんします!
「ついに!? おめでとう!!」
「ありがとうございます!!」
えー? もうケッコンしてるんじゃないのー?
もういっかい? おかしくね?
だんしうるさい! だまってて!
みさきちゃんよりあしおそいくせに!
おまえのほうがおそいだろ!
わたしはいいの!
みさきちゃんもなにか言って!
……ん?
\かわいぃぃぃ/
――という具合に、話は一瞬で広まった。
ゆいは嬉しい。
ママが最近とても嬉しそうだから。
二人で遊べる時間が少なくなっちゃったけど、ママが嬉しいのが一番だ。
それに、みさきがずっと一緒に居るから寂しくない!
あとはトマトさえ消えてくれれば完璧! ハリケーン!
「ただいま!」
学校帰り、ゆいは誰もいない部屋に挨拶をした。
最近は週替わりでゆいかみさきの部屋に住んでいて、今はみさきの部屋。
「おかえり」
みさきが後ろから返事をして、二人は一緒に部屋へ入った。
これから三時間くらいしたら、りょーくんが帰ってくる。
それからまた二時間くらいしたら、ママが帰ってくる。
その後は一緒に夜ご飯を食べて、お風呂に入って、歯を磨いて、後は寝るだけ。
最近はそんな毎日だ。
え、宿題?
ちゃんとやってるよ? ……ほんとだよ?
「みさき! あそぼ!」
「ゆいちゃん、しゅくだい」
「……はい」
……やってるよ?
「うぅぅ! かんじ書くのめんどくさーい!」
「すこしだけ」
二百字帳に一行ずつ漢字を書く宿題。
ちょっと前までは、みさきと張り合っていっぱい漢字を書いていたゆいだけれど、既に覚えた漢字をひたすら書かされるのはメンドクサイ。やりたくない。でもやらないとみさきに怒られるから仕方ない。
「おわった!」
「……ん」
「あそぼ!」
「まだ」
みさきは算数ドリルを取り出して、ゆいに差し出した。
「むむむ……」
ゆいは素直に従って、さささっと指定されたページの問題を消化する。
既に小学校の学習範囲をマスターしたゆいにとって、この程度の問題は敵じゃない。
「おわり!」
「……ん」
「あそぼ!」
「……ねる」
「みとめません!」
「トマト、たべる?」
「おやすみなさい!」
みさきが代わりに遊んで……くれないこともあるけれど、りょーくんが帰ってくるまでの辛抱です!
「ただいまー」
「おかえりなさい!」
りょーくんはママの次に良い人。
「あそぼ!」
「おう、何がしたい?」
ちょっと大きいから、立って話していると首が痛くなるけど、ちゃんと遊んでくれる。
「けっこんしきごっこ!」
「そうか、どんな遊びなんだ?」
「ちゃーんちゃーからんらんらんらんっ♪ たーん、たたたー、らーららーんらんっ♪」
それっぽいクラシックを口遊みながら、ゆいは奥の広い部屋まで歩いた。
それからバッと振り向いて、龍誠の向かって言う。
「ちかいますかっ!?」
唐突な発言に、龍誠は「そこだけ知ってるんだろうな」と思った。
笑ってしまいそうになる気持ちを何とか抑えて、彼はゆいの目の前で跪く。
「はい、誓います」
「なにをですか!?」
何を……?
問われた龍誠はうーんと考えて、
「ゆいちゃんのママのこと、絶対幸せにするよ」
「ごうかく!」
「ははが、ありがとう。じゃあ手洗いうがいするから、ちょっと待っててくれ」
「はい!」
元気に手を挙げて返事をしたゆい。
龍誠は宣言通り手洗いうがいをして、
「ところで、みさきは今日も寝てるのか?」
「そう! あそんでくれない!」
「そうか」
寝る子は育つという言葉通り、みさきはスクスク成長している。
しかし、まだまだ身体は小さくて、相当の体力しかないから寝てばかりなのだろうと龍誠は考察する。
「まあ、ご飯が出来たら起きてくるだろ」
「またすぐねちゃう!」
「ゆいちゃんは一緒に寝ないのか?」
「げんきいっぱい!」
ゆいは「シュッシュッ」と言いながらステップを踏んで、有り余る元気をアピールする。
「りょーくん!」
「どうした、ボクシングか?」
「あたしは、弟がいいです!」
「っ!?」
唐突な言葉に、龍誠は凍り付いた。
「そ、そうか。ゆいちゃんは弟が欲しいのか」
「いつごろですか!?」
「さあ……いつだろうな」
「さいきんベタベタしてますね!」
龍誠は頭を抱える。
「学校で、そういうことも教えてもらうのか?」
「どういうこと?」
きょとんと首を傾けるゆい。
それから続けて、
「ケッコンしたら、とくしゅのうりょくがゲットできるんじゃないの?」
誰から聞いたのだろうと思いながら脱力して、龍誠は言う。
「ああ、だけど直ぐには使えないんだ」
「なんと!?」
ゆいは驚愕の事実を知ってしまった!
「どうやったらつかえますか!?」
「そうだな……」
龍誠はちょっと意地悪な顔になって、
「ゆいちゃんがトマトを好きになったら、使えるようになるかもな」
「あきらめます!」
即答したゆい。
今度こそ龍誠は耐えられなくて、大きな声で笑った。
それから二人は結衣が帰ってくるまで楽しく遊んだ。
龍誠は結衣と一緒に夜食を作って、その匂いにつられてみさきも起きてきた。
「いただきます!」
そして、誰一人として血の繋がっていない家族の時間が始まる。
一方で、
結衣と龍誠は、
少しだけぎこちない様子だった。
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