第166話 SS:みさきとママ


 結衣に背中を預けた時、みさきは不思議な心地良さを覚えた。


 りょーくんの膝に乗った時とは違う。

 まゆちゃんの膝に乗っていた時とも違う。


 何か、頭の後ろが柔らかくて、気持ち良かったのだ。


 みさきはあの感覚が忘れられない。

 だから翌日の学校で、みさきは色んな人の膝の上に飛び乗った。


「わっ、びっくりした!」


 と驚いたゆい。


「ちがう」


 みさきはゆいの膝から離れる。


「ふふくもうしたてます!」


 突然膝に乗られて、違うと言い捨てられ、憤慨するゆい。

 みさきは無視して、次に瑠海の膝に飛び乗った。


「みゃっ!? びっくりした。みさきどうしたの?」

「……ちがう」


 みさきは瑠海の膝から離れる。


「……るーみみん?」


 何がなんだか分からない瑠海。

 みさきは首を傾ける瑠海の前で、少しだけ立ち止まって考える。


 何が違うのだろう。

 ゆいちゃんのママとゆいちゃんは、大人と子供。


 でも、りょーくんも大人で、まゆちゃんも大人。

 りょーくんは男の子で、ゆいちゃんのママは女の子。でもまゆちゃんも女の子。


 何が違う?

 どこがちがう?


 ……ママ?


 りょーくんはりょーくん。

 まゆちゃんはまゆちゃん。

 ゆいちゃんのママは、ママ。


 もしかしたら、ママの膝の上は気持ちが良いのかもしれない。


 みさきはママを探すことにした。

 ん? ママってなに?


 みさきは悩む。

 その時、ちょうど視界に先生の姿が映った。


「ママ?」


 みさきは先生に問いかけた。

 先生は少しだけビックリした後、急にほっこりした表情で言う。


「先生はママじゃありません」

「……ん」


 納得したみさき。

 そのまま踵を返して、自分の席に戻った。


 先生はみさきを目で追いかけながら、何が伝えたかったのかなと首を傾ける。


 ムッとしてみさきを見るゆい。

 不思議そうな顔でみさきを見る瑠海。

 うーんと考え込むみさき。


 授業中も。

 ごはんの時も。

 あの気持ち良さが忘れられない。


 果たして次の休日。

 みさきは結衣の膝の上に座っていた。


「みさき! あそぼ!」


 ゆいが隣で体を揺らしても、


「みさき、遊んでやったらどうだ?」


 龍誠が口添えしても、みさきは頑なに動かない。


「まあ、そういう日もあるのでしょう」


 悪い気分ではない結衣。

 結局、ゆいは龍誠が相手をすることになった。


 またソファの上で二人きりになった結衣とみさき。

 みさきは頭を柔らかい物の上に乗せて、この上ない満足感を得る。


 結衣は突然みさきが懐いたことに少しばかり戸惑ったけれど、大人の女性に甘えたい気持ちがあるのかなと判断して、快く受け入れた。


「……ママ?」

「ふふふ。はい、ママですよー」


 ママという存在だから寝心地が良いのですか? と訪ねたみさき。

 予想通り甘えていると判断した結衣。


「……ん」


 みさきはグッと背中を押し付ける。

 結衣は柔らかい表情を見せて、みさきの頭を優しく撫でた。


 二人の考えは食い違っているけれど、きっと気持ちは一致している。


 みさきも結衣も心地良い。

 そんなゆっくりとした時間が、暫く続くのだった。

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