第165話 SS:みさきと結衣
ゆいと結衣。
みさきと龍誠。
あれ以来、四人は定期的に集まるようになった。
集まるといっても、特に何かをするわけではない。
ゆいとみさきが毎週のように遊ぶから、それに保護者として二人が付き合っているといった形だ。
ゆいとみさきは仲直りしたことで、前よりもっと仲良しになったらしい。
今日は、龍誠の部屋に集まっていた。
ゆいとみさきは暫く遊んでいたが、やがて飽きて、ソファでテレビを見ていた親達の膝に乗った。
そのまま談笑しながら歴史ドキュメンタリー番組を見ていたのだが、ゆいは途中で飽きてしまった。
その後、ゆいが珍しく外で遊ぼうと言い出したけれど、みさきと結衣はテレビに夢中。
仕方なく、龍誠が付き添う形になった。
こうして二人になった結衣とみさき。
暫くはテレビを見ていたが、やがて番組が終わると、なんだか手持ち無沙汰になった。
結衣は少しだけみさきが苦手だ。
みさきはゆいと比べて感情表現が乏しい。怒っているか喜んでいるかは色で分かるけれど、それがあまりにも表情と一致しないから、時々不安になる。
……良い子なのは分かっているのですが。
物分かりが良くて、とても素直。
だが、あまりにも大人しい。
「とても興味深い番組でしたね」
「……ん」
試しに声をかけてみても、この通りだ。
これがゆいであれば、嬉しそうに話を始めるはずである。
みさきは対照的に静かで、結衣は少し居心地が悪いというか、やりにくい。
一方でみさきは、ちょっと考え事をしていた。
あの日、結衣が来てからりょーくんは元気になった。だからみさきはお礼が言いたい。
でも、なんだか気恥ずかしいというか、少し怖い。
りょーくんならいつもニコニコして話しかけてくれるけど、結衣はあまり声をかけないし、そんなにニコニコしていない。
みさきは迷った。
迷って、迷った。
果たして、ぴょんとソファから降りて、立ち上がった。
「みさき、どうかしましたか?」
直ぐに結衣から声をかけられる。
みさきは口を一の字にして、結衣の顔をじーっと見た。
……どうしたのでしょう?
結衣は心の中で首を傾ける。
みさきの色は、何かを決意したけれど、ギリギリになって躊躇しているような人に見られる色だ。
結衣は少し考えて、お手洗いかな? と思った。
そして結衣が声をかけようとした瞬間、みさきは背を向けて、ぴょんと結衣の膝に飛び乗った。
「みさき?」
驚く結衣。
みさきはギュッと体を緊張させる。
やがて、とてんと倒れるようにして結衣に体重を預けた。
それから顔を上に向けて、じーっと逆さ向きに結衣を見つめた。
これがみさきの精一杯のありがとうだ。
それを受けて結衣は、感じたことの無いような高揚感を覚えた。
……これは、甘えているのでしょうか?
かわいい。
とてもかわいい。
「みさきは、猫の様な子供ですね」
「……ねこ?」
「はい、猫さんです。にゃー」
「……にゃー」
結衣のマネをして鳴き声をあげたみさき。
結衣はブルりと身を震わせて、衝動的にみさきの顎を撫でた。
みさきは気持ち良さそうに目を細める。
その姿があまりにも愛くるしくて、それから龍誠達が帰ってくるまでの間、結衣はみさきのことを撫で続けていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます