第23話 人生ゲームを作った日(5)
* 5日目 *
朝だ、朝になった。
いよいよ残り二日。あと二回の朝を迎えて、その後の夜がタイムリミット。
進捗は、ゼロのままだ。
今日明日は休日。ニート同然の俺には無関係だが、普通の人からすればラストスパートを仕掛ける大チャンスだ。
そのチャンスの上で、俺は、パソコンを開くことすら出来なかった。
「…………」
考えている。ずっと考えている。しかし何も思い浮かばない。解決の糸口すらも掴めない。
だから俺は、現実逃避――みさき観察をしていた。
みさきは嬉しそうに算数ドリルを攻略している。わざわざノートを使って、丁寧に問題を書き写しながら解いていた。
ここ数日、みさきは本当に楽しそうだ。
パッと見では、いつも口を一の字にしている。だが慣れれば微妙な違いが分かる。ゆいちゃんとの出会いは、みさきに良い影響を与えたらしい。
それを嬉しく思うと同時に、情けない感情も胸を叩く。
……差を付けられちまったな。
みさきを育てるどころか、みさきの方が賢くなっている。子供の吸収力とか、内容の難しさとか、いろいろ差し引いても、俺はみさきにボロ負け状態だ。
……ほんと、情けねぇ。
ダメだ、どんどんネガティブになる。
「りょーくん」
「……お、どうした?」
軽く唇を噛んで、返事をする。
分からない問題でもあったのだろうか。
「……なに?」
みさきは算数ドリルを指差して言った。
5 = 3 + □
みさきの小さな指先には、簡単な算数の問題が記されていた。
「……さん、たす、しかく?」
「これは、四角に何が入るかって問題だな」
「……んー?」
首を傾けるみさき。
かわいいなチクショウ。
「なんでもいい。好きなもの入れてみろ」
「……りょーくん?」
かわいいなチクショウ!!!
「俺は入らねぇかな」
「……んー?」
なんで、と言いたそうな目。
俺は、少し困ってしまった。ヒトは数字じゃねぇんだから、足したり引いたり出来ないに決まってる。だがみさきは、そんな当たり前のことも――
待て、待てよ。
ヒトを足したり引いたりしたらダメだと?
そんなの誰が決めたんだよ。
……そんなルール、どこにもねぇだろ。
そうだ、そうだよ。
ルールを作ればいいだけじゃねぇか。プレイヤもルーレットも何もかも、□に捻じ込めばいいだけだ。
いける、これならゲームを作れる!
「……愛してるぜ、みさきぃ!」
勢いでみさきの両脇を掴んで持ち上げる。
急なことでジタバタ驚いてるが、そんなこと関係ねぇ……っと、あぶねっ、天井にぶつけるところだった。
「……んー!」
あはは、本気で嫌そうだな。
まあ、あんまし好かれてねぇからな。
「悪りぃなみさき、興奮しちまった」
そっと下ろす。みさきはサササっと離れて、部屋の隅っこで丸くなった。
……余計に嫌われちまったか?
苦笑して、悩んだ末にパソコンを開く。
「……」
目を閉じる。
直前に思い浮かんだ考えを整理する。
プログラムで出来るのは計算だけ。
ルールを決めて、数字を操るだけ。
ルールってなんだ?
なんでもいい。自分で決めるものだ。
……残り二日。いけるか?
ロリコンはクソ生意気な顔で言った。僕は二日で終わらせた。あの変態野郎に出来て、俺に出来ない理由は無い。
俺にはステータスが足りてない。経験も実績も何もない。今頭にあることが正しい保証なんて、どこにもない。不利な勝負だ。客観的に考えて、勝算はゼロに近い。
上等だ、やってるよ。
ルールを自分で決めるなんて、俺がずっとやってきたことじゃねぇか。クズにはクズなりの経験値がある。舐めんじゃねぇぞ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます