第24話 人生ゲームを作った日(6)
* 6日目 *
俺は食事も忘れて手を動かす――というわけにはいかず、みさきと牛丼を食っていた。
すっかり常連になった俺とみさき。
俺は頭の中で帰宅後に記述するプログラムを思い浮かべながら、もぐもぐミニを食べるみさきを見守っている。
牛丼ミニ。
みさきの宿敵である。
最初、みさきは9割以上も残して満腹になっていた。だが残す量は日に日に減り、完食が見え始めてからは粘るようになった。
いま、みさきは粘っている。
食事のペースは明らかに落ちていて、牛丼を見る目から唯ならぬ殺気を感じる。
俺ならば、あと二口。
みさきにとっては、まだまだ先のこと。
やがて、みさきはスプーンを持ち上げた。
そして少量の、みさき基準で一口サイズの米と肉を口の中に入れる。
ギュッと目を閉じて、ゆっくり咀嚼するみさき。ゆっくり、ゆっくり――やがて、無言で俺に目を向けた。もうムリというサインである。
「もうちょいだったな」
とても悔しそうなみさき。
みさきは意外と負けず嫌いなのだ。
「……もうちょい」
次こそは。強い意志を感じる。
「んじゃ、次は俺の番だな」
「……ん?」
きょとんとするみさき。
俺は残った牛丼を胃に収めて、席を立つ。
さあ、勝負の時間だ。
*
ロリコンは人生ゲームを作れと言った。
しかし具体的な内容は何も言っていない。
だから俺が決める。
俺が正しいと言い張れば、それでいい。
まずはルールを決めた。
プレイヤは二人。順番にルーレットを回して、出た目の数だけ進む。止まったマスではイベントが発生して、金が増えたり減ったりする。以上、他の要素は考えない。
……イベントの文章は百円拾ったとかでいいよな。ルーレットの出目だが、ランダムな数字ってどうやるんだ? まあ千個くらい適当に選んで順番に使えばいいか。
これまでの停滞が嘘だったかのように次々とアイデアが思い浮かぶ。キーボードを叩く指が止まらない。
……練習の成果か。
キーボードの配置は二日かけて身体で覚えた。今では、ある程度は手元を見なくても入力できる。それでも一秒に二回から三回程度の速度しか出ないが、十分だ。
成長を実感すると同時に、もしも練習していなかったらと思うとゾッとする。いくらアイデアがあっても、時間が足りないだろう。
……最高の気分だ。
目的を持って練習をした。その成果が次々と形になる。こんなに愉快なことはない。
俺は神にでもなったかのような気分でタイピングを続けて――手を止めることなく、思い描いた通りのプログラムを完成させた。
「……マジか?」
目の前に出来上がったプログラムを見て、両手が震えている。
正直、諦めかけていた。
たったひとつのアイデアが、ほんの数時間でゲームを完成に導いた。
あまりにもあっさりと。
夢のような現実が、目の前にある。
「えっと、まずはコンパイルだったか?」
勝利の感触に頬を緩ませながら本を開く。
コンパイルとは、人間が書いたプログラムをコンピュータが理解できるように変換する作業のことだ。作業は簡単で、コマンドを入力するだけ。
「よし、あってるよな」
コマンドを入力して、本に記述されたものと見比べる。完璧に一致している。
俺は短く息を吸って、ボタンを押した。
そして――
「…………ふざけろ」
表示されたのは、大量のエラー文だった。
「なんだこれ英語? 何が起きやがった?」
なぜエラーが発生したのか、どこを修正すればいいのか、全く分からない。
「何がチゲェのか書いとけよ……日本語で」
……いや、落ち着け。
……これとか、見覚えあるぞ?
エラー文に紛れて、俺が書いたプログラムが表示されていた。周囲の記述はさっぱり分からねぇが、とりあえずここが違うってことは分かる。
だが、肝心の修正方法は分からない。
俺はガックリと脱力して真後ろに倒れた。
「……だいじょうぶ?」
心配そうな声。
俺は思わず笑って、強がりを口にする。
「余裕だ。勝ちは見えたぜ、みさき」
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