第38話
もうすでに陽は落ちて、辺り一面真っ暗だ。
ただ煌々と輝く三日月が、凛とした男の姿を浮かび上がらせている。
「だっ、誰だっ!」
「おぞましい悪鬼共め、何をしている?俺が、全て狩ってやる」
「は?悪鬼?狩る?…もしや、前に乃亜くんが言ってた…」
僕は、月島が男に気を取られてるうちに、ふらふらと旭の元へ行き、旭に抱きついた。
木にぶつかった時に頭も打ったのか、旭はずっと意識を失ったままだ。
「…旭、旭っ、しっかりしてっ。僕が…必ず助けるから…っ」
「なんだ、仲間割れか?醜いな。あ…おまえは…」
男の声に、僕はゆっくりと振り仰ぐ。
情けなくも涙を流しながら、僕は男に懇願した。
「お願いっ!旭を助けてっ!あんた強いんだろっ。僕はどうなってもいいから…旭だけはっ!お願いっ。僕では旭を助けられへん…」
「……」
男は、しばらく僕の目をじっと見つめると、無言で顔を逸らせた。
やっぱり、この人の言う悪鬼である僕の頼みなんて聞いてくれへん…。
僕は、旭を守るように強く抱きしめて目を閉じた。
僕の背中に流れる血から香ってくる、むせ返る甘い花の匂い。この匂いのせいか、目を閉じるとよく夢で見た光景が、瞼の裏に浮かんでくる。
僕を抱きしめる女の人と男の子。その後ろに見える刀を持った人達の中に、見覚えのある顔がある。
夢の中では顔がはっきりとわからなかったけど…。あの人は…おじさん?
「うわあぁ!!」
「ぎゃっ!」
立て続けに聞こえてきた悲鳴に、僕は顔だけを後ろに向ける。
月明かりに浮かび上がる男の手には、血に染まった刀。そして男の足元には、津田、小山内、もう一人の三人が、血を流して倒れていた。
「おっ、おまえっ!絶対に許さねぇっ!!」
月島の赤い目が恐ろしく吊り上がり、長く伸びた爪が鋼のように黒く光っている。
月島の姿が、一瞬で消える。
直後にキィンと金属がぶつかる音がして、僕のすぐ後ろに月島の姿が現れた。
「くそっ!くそっ!何だよおまえっ!人間のくせにっ!!俺は強いんだっ。いつか使う側になって、一族の王になって…っ」
「強い?その程度でか?おまえのような害虫は早く始末するに限る。覚悟しろ」
「はあっ?誰に向かってそんな口を聞いてるっ!くそがっ…」
喚きながら後ろに下がった月島の足に、僕の身体が当たる。
月島はギロリと僕を睨みつけると、僕を旭から引き剥がして、動けないように僕の身体を押さえ込んだ。
「あ…やめっ…」
「乃亜くんさぁっ、君がモタモタしてるからこんなことになったじゃんかっ!役立たずめっ!君が完璧に覚醒してから、白波瀬の紋章をもらうつもりだったけど、もう待てないっ。今もらうぞっ!」
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