第37話
旭が、僕を背中に隠して月島の正面に立つ。
「乃亜、こいつの言うことを聞くな。なあおまえ、乃亜は渡さない。それに俺も乃亜と一緒に帰るよ。いい加減、諦めてくれないかな?」
「黙れ人間。おまえには決してわからない。乃亜くんを求める俺の気持ちがどれ程のものか。おまえも死にたくないだろう?早くここを立ち去れ」
「乃亜は俺の大切な宝だ。おまえみたいな野蛮な奴らに渡すわけないだろうがっ。おまえらこそ早くどっか行けよっ」
月島は「ちっ…」と舌打ちをすると、右手を上げた。
それを合図に、後ろにいた三人が旭に襲いかかる。
長年空手を習っていた旭が応戦するけど、力が違い過ぎる。小山内ともう一人の攻撃をかわしながら繰り出した旭の突きを、津田が素早く避けて、旭の脇腹を思いっきり蹴り飛ばした。
旭の身体が大きく飛んで、山道の脇の木にぶつかり、どさりと落ちる。
「ぐ…っ」
「旭っ!!」
動かなくなった旭に向かって長く尖った爪を振りかざした津田に、僕は無我夢中で突進した。
「…ぐぅっ…かはっ…!白波瀬くん…俺は、同志ですよ…」
「はあっ、はあっ…」
僕の右腕が熱い。
なんでだろうと見ると、津田の背中に僕の右腕がめり込んでいる。
その光景に吐きそうになるのを我慢して、力を込めて腕を引き抜く。
「旭…」
僕は、膝をついた津田を押し退けると、震える血濡れの腕を旭に向かって伸ばした。
「ダメだなぁ、乃亜くん。いくら使う側でも、仲間を傷つけるのはルール違反だ」
「あっ…!」
月島に伸ばした腕をひねり上げられ、背中に激痛が走る。
まだ塞がっていない傷口に、月島が爪をくい込ませたのだ。
あまりの痛みに、僕の目が霞んでその場に崩れ落ちた。
「もういい加減面倒くさくなってきたよ。津田、腹に開いた穴を早く塞げ。でないと死ぬぞ。小山内、宇津木を殺れ。乃亜くんは力ずくで仲間に入れる。そいつはもう、用無しだ」
「な…っ、やめ…っ」
小山内が、ためらうように僕を見た後に旭の髪を掴む。旭の顎を上げさせて首を晒すと、アイスピックのように尖った爪を、旭の肌にくい込ませた。
僕がもう一度、先程のように声を張り上げようとした瞬間、再び背中に激痛が走る。
「余計なことはしちゃダメだよ。ほら、ちゃんと見てろよ。乃亜くんが無力だから大切な人を無くすんだ。だから早く強くなろうね?」
月島が、僕の背中の傷を指でグリグリと抉りながら、冷酷に言う。
もうダメだ…っ!と絶望しかけたその時、すぐ傍を風が吹き抜けて、小山内の悲鳴が聞こえた。
「ぎゃあぁっ!!」
小山内に目をやると、手首から先が無い。
両腕から血飛沫を上げて叫ぶ小山内の横に、数ヶ月前、僕を殺そうとしたあの男が、刀を手に立っていた。
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