第36話

「やっ!やめろーっっ!!」


 僕の絶叫が部屋に響き渡る。

 心臓がドキドキとうるさく鳴って、口から飛び出そうだ。

 僕は、僕の肩を掴んでいた月島の手を払いのけると、急いで旭の元へ駆け寄った。

 不思議なことに、旭を取り囲んだ数人の男達は、皆口を開けたまま動こうとしない。

 僕は首を傾げながら、今のうちに…と旭の腕を掴んで、震える足を何とか動かして部屋を出た。


「あ、旭、大丈夫?走れる?ここの敷地を出たら走って逃げて。僕が月島らを止めとくから…」

「は?何言ってんだよっ!乃亜も一緒に逃げるに決まってるだろっ」


 旭の腕を引っ張って玄関を出た僕の手を、今度は旭が強く引いて歩き出す。


「乃亜、こんなに震えて…。早く傷の手当もしなきゃ。大丈夫だよ。俺はどんな乃亜でも好きだ。だから俺と一緒に帰ろう。わかった?」

「旭…」


 僕の視界が涙で滲む。


 旭、旭、僕も大好きだよ。僕の正体を知っても嫌わないでくれた。このまま帰って、また一緒に暮らしたい。でも…もう無理だよ。何でかわからないけど、今は月島達は動けなくなってる。だけど、そのうち必ず追いかけてくる。その時、僕は旭を守れる?僕は自分にどんな力があるのかも知らない。旭を守る術を知らない。だから僕が囮になって、何とか旭だけでも無事に帰したいのに…っ。


「乃亜、走れる?無理なら俺の背中に乗って」

「…大丈夫。走れる…」

「よしっ、じゃあ行くよ?」


 旭が、僕の手をしっかりと握って走り出す。

 僕も、もつれそうになる足を繰り出して、敷地を出て山道を下り、途中で車が通れない細い道に入った。

 車が通る舗装された道路から見えない所まで来ると、道の脇にある大きな石に二人で腰掛けて息を整える。

 ただでさえ薄暗い山の中が、陽が傾き始めて暗くなってきた。


「やばいな…。完全に暗くなる前に山を降りないと迷うぞ」

「あっちの道路に戻ると道がわかるんやけど…」

「でも奴らが車で追いかけてくるかもしれないし…。仕方ない。少しずつ下って行けば、街に着くだろう。もう少し頑張ってくれよ、乃亜」


 旭が差し出した掌の上に、手を乗せる。

 お互いにしっかりと握りしめると、立ち上がって歩き始める。


「ねえ、このまま逃げられると思ってるの?」


 いきなり背後から声がして、僕と旭は勢いよく振り返った。

 僕達から二三メートル離れた所に、月島を先頭に小山内、津田ともう一人の男が立っていた。


「なっ、なんでっ!」

「乃亜くん、やってくれたね。完全に覚醒していないのにあの力…俺は感動したよ。あんな素晴らしい力を持つ君を、絶対に帰したりしない。これが最後だよ。素直にこちらに来るなら、宇津木くんを帰してあげる。でも断るなら…宇津木くんを殺す。さあどうする?」

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