第31話

「…どっ、どういうこと?なんで月島が旭を…っ!」


 僕は男に飛びつき上着を掴む。

 男…津田は僕の手を握ると、軽く引き剥がした。


「それは、あなたが素直に仲間の元へ来てくれないから、代わりにお兄さんを招待したのですよ。どうしますか?あなたもお兄さんがいる場所へ行きますか?」

「行くに決まってるやろっ!早く連れていけよ!」

「わかりました。では大人しく俺と一緒に来て下さい。ふっ…、高貴なあなたの顔が歪む様は、見ていてゾクゾクしますねぇ…」


 津田が下卑た笑いを浮かべて、僕を見る。

 一瞬だけ赤く染まった津田の目に嫌悪を感じて、僕は小さく舌打ちをして顔を逸らせた。



 大学の門を出るとすぐに、目の前に車が止まった。

 津田が後部座席のドアを開けて「どうぞ」と笑う。

 僕は津田を睨みつけながら車に乗り込んだ。


「どうも。先週ぶりです」


 反対側から乗り込んで来た津田に気を取られていると、前から声をかけられた。

 運転席に小山内がいた。


「…僕はもう二度と会いたくなかったけどな。早く月島の所に連れて行って」

「もちろん。月島くんにも、あなたを連れて来るように頼まれてますから」


 小山内は、人の良さそうな笑顔でそう言うと、前を向いて車を発進させた。


「今日は変な薬を嗅がさへんの?」

「あなたが大人しくしてたら、手荒なことはしませんよ」


 僕は津田を一瞥して、視線を窓の外へ向ける。

 車は、先週連れ込まれたマンションがある方向とは逆の道を進んでいるようだった。


「…なあ、どこに行くん」

「郊外にね、月島家所有の別宅があるんです。我々が集まる場所に使わせてもらってます。周りに家がないから、多少騒いでも大丈夫なんですよ」

「ふーん…、全然楽しくなさそう」

「いえいえ、あなたも来てみればわかりますよ」


 どうせ周りに人家がないその家で、人間を襲っているんだろうと、胸くそ悪くなる。


 そんな所に旭を連れて行くな。

 もし旭に何かしたら、月島も、その場にいる奴らも、小山内も津田も、絶対に許さない。


 僕は静かに深呼吸を繰り返す。

 そうでもしないと、感情が昂って、人間では無くなってしまう。


 僕はもう、知っている。

 今は理性で抑えているけど、どうすれば力を解放出来るのか。そしてほんの少し箍を外せば、本来の姿になれることを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る