第29話

 しばらく旭と抱き合ってるうちに、疲れと温泉の気持ち良さで、うつらうつらと頭が揺れ出した。


「乃亜?眠いの?じゃあそろそろ出よう」

「うん…疲れた」


 旭が僕の頬にキスをして、僕の中から自身を引き抜く。

 抜かれる時に中が擦れて、思わず「あ…」と声が漏れた。


「ん…可愛い。乃亜、立てる?」

「立てない…」

「仕方ないなぁ」


 そう言って笑うと、旭が僕を抱えて湯船から出る。

 洗い場にあるシャワーで僕の中を綺麗にして、身体も丁寧に拭いてくれて浴衣を着せてくれた。

 縁側にある椅子に座って、旭が身体を拭いて浴衣を着ていく様子を眺める。

 程よく筋肉のついた均整のとれた身体。

 綺麗だなぁ…と見とれていると、旭が僕の前に来て顔を覗き込んだ。


「乃亜?もう限界?」

「ん…。旭、朝風呂にも入りたいから起こしてな」

「いいよ。一緒に入ろう」

「ん…」

「ふっ、素直。乃亜、もうちょっと我慢して。髪の毛乾かすから」

「このままでいい…」

「ダメだよ。待ってて」


 旭が洗面所からドライヤーを持ってくると、椅子に座る僕の髪の毛を乾かしていく。

 優しく髪に触れる旭の手が心地好くて、僕はいつの間にか眠ってしまった。



 楽しく幸せな旅行から帰って来た日の翌日の月曜日、旭も僕も大学を休んだ。

 おじさんは仕事に行ったので、一日中二人でイチャイチャとして過ごした。

 旅行先でセックスをしたばかりだけど、この日もイチャイチャとしてるうちに我慢出来なくなり、旭のベッドで身体を繋げた。

 あの時のように目の色に気づかれないように、ちゃんとコンタクトレンズをつけてある。

 それに、なるべく顔を見られないように、旭に強くしがみついていた。

 ただ、困ったことがある。

 この前の温泉の時から、旭に触れていると、旭の首に噛みつきたくて堪らない気持ちになるんだ。

 この日も旭に揺さぶられながら、唇に触れる旭の肌に歯を食い込ませたくて、その欲望に耐えるのが大変だった。


 なんで?僕の身体の変化が怖い…。このままじゃ、いつか旭の血を吸ってしまう。おじさんに言って、もっと点滴の量を増やしてもらおう。


 僕は、旭の肌の代わりに自分の腕を噛んで、奥深くに吐き出される熱いものに腰を震わせながら、自身からも白濁を吐き出した。


「あ…はあ…っ」

「乃亜…愛してる」


 耳朶に響く旭の掠れた声とリップ音に、熱い息が漏れる。

 荒い呼吸を整える為に大きく息を吸った瞬間、僕の腕に滲む血から、甘い花の香りが漂ってきた。

 その匂いに、僕の目の前がクラリと揺れて、慌てて固く目を閉じる。閉じた瞼の裏側に、ふいにあの刀を持った恐ろしい青年の姿が浮かび上がって、身体が震えた。

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