第25話

 月島に連れ去られた日から旭が帰ってくるまで、僕は大学を休んで家でゆっくりと過ごした。

 大学に行って月島に絡まれるのが嫌だったし、体調が中々良くならなかったことから、おじさんに「家で休んでなさい」と言われたのだ。


 月島は、僕を特別な存在で憧れだと言ったけど、僕はこんなにも弱い。吸血鬼なのに、人並み以下の体力だ。こんな弱い僕を仲間にしたって、きっと何の役にも立たない。だからいい加減、僕のことを諦めて離れて欲しい。


 リビングのソファーに寝転んで録り溜めた番組を見ながら、そんなことを考えた。


「仲間…ねぇ。あの部屋にいた一人二人は、大学で見たことある気がするな…。あとは見たことない顔やったな。それに憧れって嘘やろ。僕を値踏みするような目で見てたで…」


 あの部屋にいる全員が、僕を見ていた。

 瞳を赤く光らせて見る人もいた。

 あの赤い目を見て、僕は一瞬震えたんだ。


「やっぱり赤い目って気持ち悪いよな…。あんなの、絶対に旭に見せるわけにはいかへん…。気をつけなきゃ」

「何を気をつけるんだ?」

「えっ?うわあっ!」


 いきなり頭上から声がして、僕は悲鳴を上げながら勢いよく身体を起こした。


「ふふ、おっきな声。乃亜、ただいま」

「旭っ?お、おかえり…」


 真剣に考え込んでいたから、ドアの開く音や旭の足音に気がつかなかった。

 僕は早鐘を打つ胸を押さえて旭を見上げる。

 ソファーの横に荷物を置いて、旭が身体を曲げると「何も無かった?」と聞いて唇にキスをした。


「ん…なかったよ」

「ほんとに?ちゃんと正直に言って?」


 額を合わせて、至近距離から見つめられる。

 僕は一瞬言葉に詰まった後に、小さく声を出した。


「う…ちょっと体調崩した…」

「やっぱり。そうだと思った。元気ないから」

「元気ないのは、旭がいないからや…」

「乃亜…もうっ、可愛いなぁ」


 旭は満面の笑みで僕の隣に座ると、僕を抱えて自分の膝の上に座らせた。


「熱は?少しあるかな?ちゃんとベッドで休まないとダメじゃん。エアコンもガンガンにかけてるから、ほら冷えてる」

「旭が一緒に寝てくれるならベッドに行く」

「何、どうしたの?数日離れただけでこんなに可愛くなって。寂しかった?」

「うん…」

「俺もだよ、乃亜」


 チュッと僕の額に口づけると、旭が僕を抱えたまま立ち上がり、僕の部屋へと向かう。


「旭、予定よりも早かったね」

「乃亜に早く会いたくてさ、皆よりも一本早い電車で帰って来た」

「え?そんな勝手なことしていいん?」

「いいよ。俺の愛する乃亜の為だからな」


 綺麗な笑顔を向けられて、僕は不覚にも照れて顔を伏せる。


 なんだよ、僕に甘すぎ。なんか…嬉しくて涙が出そう。


 旭といると、僕が何者かなんて忘れてしまう。


 ねえ神様、どうかこの先も、ずっと旭の隣で僕を人間でいさせて。

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