第23話

「乃亜くん、乃亜くん…」


 強く肩を揺すられて、ゆっくり目を開ける。

 すぐ目の前に月島の顔が見えて、最悪な気分で顔をしかめた。


「あ、気づいた?気分はどう?」

「は?…いたっ…」


 月島の顔を避けるように手で払って起き上がろうとする。途端に頭がズキンと痛み、頭を抱えて俯いた。


「頭…痛い…」

「ごめんごめん。薬が効きすぎちゃったかな?すぐに治ると思うから許して?」

「薬…?」


 僕はハッと顔を上げる。

 見慣れない部屋に幾つもの見慣れない顔がある。


「あんた達…誰?それに、ここはどこだよ」

「俺言ったじゃん。パーティするよって」

「は?僕は行かへん言うたよな?なのに変なモノ嗅がせやがって…っ」

「乃亜くん、そんな言葉使っちゃダメだよ。乃亜くんは僕達の憧れの人なんだから」

「はあ?意味がわからへん…」


 月島はテーブルの上に置いてあるコップを取って、僕に差し出した。


「なにそれ…」


 僕は赤い液体が入ったコップを目にして、思いっ切り苦い顔をする。

 何が入ってるのかなんて一目瞭然だけど、聞かずにはいられなかった。


「俺達の栄養の元じゃないか。さあ、乃亜くんも飲んで。頭痛も吹き飛んじゃうよ?」

「いらない。そんな不味そうなモン飲めるか」


 ふいと顔を背けて、寝かされていたソファーから立ち上がる。

 月島は手にしていたコップの中の液体を一口飲むと、テーブルに戻して嫌な笑みを浮かべた。


「乃亜くんの為に特別に美味しい血を用意したのに…残念。あっ、どこ行くの?」

「…帰るんだよ。用事があるって言うたやろ」


 のろのろとドアへ向かう僕の腕を、月島が掴んで止める。


「離せっ。こんな所にいたくないっ」

「ひどいなぁ。俺達は数少ない仲間じゃんか。ここにいる同志は、乃亜くんの命令なら何でも聞くよ?」

「命令ってなんや…。別にそんなもん無いし。手ぇ離せよっ」


 月島は、はあっと大きな溜息を吐くと、すんなりと手を離した。


「乃亜くんが頑固なのは知ってるからね。今日の所は諦めるよ。顔合わせが出来ただけで良しとするよ」

「あんた…もう二度と僕に近寄るな。卑怯な手を使って僕をこんな所に連れて来てっ。僕は、あんたが大嫌いやっ」


 僕はそう吐き捨てると、ドア付近にいる数人を押しのけて、頭痛に加え目眩まで起こし始めたことに舌打ちをしながらドアを開ける。


「あ、送って行こうか?なんか体調悪そうだし」


 誰のせいやと悪態を吐いて、僕は思いっ切り力を込めてドアを閉めた。

 マンションらしき建物の廊下を進み、エレベーターで一階に降りる。

 視界が揺れて倒れそうになるのを堪えながらエントランスから外に出て、運良く走って来たタクシーに乗り込んだ。


「宇津木病院まで…」


 何とか力を振り絞ってそう告げるなり、僕は意識を失ってしまった。

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