第22話

 車がゆっくりと動き出し、月島が「どこに行けばいい?」と聞いてきた。


「四丁目の大きな公園。そこでいい」

「オッケー」


 月島は頷いて、小山内に何かを囁く。

 僕は顔を窓の外に向けたまま「話って何?」と吐き捨てた。


「乃亜くん、つれないなぁ。俺達は仲間なんだからさ、もっと仲良くしようよ。ほら、話を聞く時は相手の顔を見て」

「面倒くさ…。別に仲間ちゃうし」


 はあっ、と大きく溜息をついて、僕はのろのろと月島の方に顔を向ける。


「これでいいんやろ。早く言えよ」

「乃亜くんは可愛い顔をしてるのに性格が難ありだな。話というのは、これから仲間だけでパーティをするんだよ。乃亜くんも来てよ。皆に紹介したい」

「はあ?なんやそれ。行くわけないやん。僕、用事がある言うたよな?用事がなかっても行かへんけどな」

「まあまあ、最後まで聞いて。乃亜くんは自分がどんな存在か知らないだろ?俺達一族にとって乃亜くんは神様に近い存在なんだよ。乃亜くんの姿を目にするだけで、感動でひれ伏すくらいの有難い存在なんだよ」

「ふーん。その割に、あんたは僕をからかってるようにしか見えへんけど」

「とんでもないっ。いつも乃亜くんの姿を見て、こうして会話してるだけで、身体中の細胞が活性化して力が漲ってくるんだよ!」

「…気持ち悪い」

「わあっ、ひどいこと言うねぇ。まあいいけど。そういう尊い存在の乃亜くんを、ぜひ持て成したいと思ってさ。俺達のパーティに来てよ」


 僕は前を向いて、はっきりと言う。


「行かへん。僕があんた達にとってどんな存在かなんて知らんし。僕はただの人間や。血も吸わへんし不思議な力もない。あんたが言う仲間でもない。だからもう、僕には近寄らんといて」


 少しの沈黙の後に、月島の「そう」と言う低い声が聞こえた。


 納得したのかと安堵の息を吐いたその時、僕の鼻と口がタオルで塞がれる。

 慌てて月島を押しのけようと腕を伸ばしたけど、一瞬のうちに意識を失ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る