第19話

 あれだけ僕にはつきまとうなと言ったのに、月島は何事も無かったかのように、親しげに話しかけてくる。

 もしかして吸血鬼には人間の言葉が通じないのか?と思う程、どれだけ厳しく言ってもヘラヘラと笑っている。

 最近では最早諦めて、勝手に喋らせて無視をすることにしていた。



 ようやく暑さがマシになり過ごしやすくなって来た頃、旭がゼミの旅行に行くことになった。

 二泊三日で帰って来るのだけど、僕が一人になることを心配した旭が、大学を休めと言う。


「乃亜、行き帰りが一人になるだろ?心配だから家にいろよ」

「…大丈夫。それにその日は、プレゼンがあるから休めへん」

「そうか…。じゃあやっぱり旅行は止め…」

「あかんで!ちゃんと行って!僕は大丈夫やって。プレゼンの日以外は家にいるから」

「…ほんとに?」

「ほんとに。マメにメールもするし。心配やったらおじさんの病院にいててもいいし」

「…そうだな。父さんの所にいてくれたら一番安心かな」


 旭のベッドに寄りかかっていた僕の肩を抱き寄せて、旭がこめかみにキスをする。

 僕は旭の肩に頭を乗せて、気づかれないように小さく溜息を吐いた。


「旭…そんなに心配?」

「心配。俺が傍にいない時に貧血で倒れたら、とか、また変な奴が襲って来たら、とか…」

「暑さが和らいできたし、おじさんの病院にも定期的に行ってるから最近は調子いいよ?」

「…そうだな。でも、あの変質者が、また襲って来るかもしれない。俺がいない時に乃亜に何かあったら、俺死んじゃうよ?」


 旭が、僕の髪に唇を寄せて肩を強く抱く。

「ほんまに心配性やなぁ」と文句を言いながらも、僕のことをそんなにも思ってくれることが嬉しくて、顔を上げてキスをした。


「乃亜、乃亜は俺がいなくて寂しい?」

「…う…、さ…さびしい…」


 自分の素直な気持ちを伝えることに、どうしても照れてしまう僕は、とても小さな声で答えて旭の肩に顔を埋めた。


「ふふっ、俺も。乃亜、顔見せて。今日と明日と明後日と明明後日の分のキスをしよう」

「…そんなにしたら、唇腫れるやん…」

「うん、そうだね。でも俺のこと、すぐ思い出すだろ?」

「旭のバカ…。僕はいつも旭のこと考え…んっ!んぅ…っ」


 いきなり顎をすくわれて、旭が僕の唇を塞ぐ。何度も角度を変えて強く唇を合わせ、舌を絡めて唾液をすする。

 旭の手が上着の裾から入ってきて、僕の肌をスルリと撫であげ、僕はビクンと肩を揺らした。

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