第18話

「乃亜?どうしたんだ?」


 旭と待ち合わせている場所まで走って来た僕を見て、旭が驚いた声を出す。

 僕はハアハアと肩を上下させて、荒い息を落ち着かせようとした。


「…いや、遅れそうになったから、慌てて来たん…」

「別にいつまでも待つからゆっくり来たらいいのに…。また貧血を起こしたら大変だよ。ほら、そこでちょっと休もう」


 旭が僕の肩を抱いて、すぐ傍の木の下にあるベンチへと連れて行く。

 僕を座らせると「ちょっと待ってろ」と離れる。

 僕が背もたれに凭れて目を閉じていると、すぐに「乃亜」と旭の優しい声がした。


「ほら、これ飲んで」

「ありがとう…」


 旭に手渡された冷えたミルクティーのペットボトルを、熱くなった頬に当てる。


「あー、冷たくて気持ちいい…」

「乃亜、俺の見ていない所で無茶するなよ。もし貧血で倒れても、すぐに助けてやれない…」

「大丈夫やって。ちょっと調子に乗ってしもただけやし。次から気をつけるから」

「うん、約束な」

「心配性やなぁ」


 ペットボトルを旭の頬に押しつけて「冷たっ」と声を上げる旭の反応を見て笑う。


 旭に心配されるのは、心地良い。僕のことを思ってくれてるから心配するんだと思うと、とても嬉しい。

 こんな風に旭と二人で、ずっと平穏に過ごしていきたい。もちろん、おじさんも一緒に。


 旭が僕の腕を掴んでペットボトルを遠ざけると、素早く唇にキスをした。


「…んっ。…ばっ、バカっ、誰かに見られたらっ」

「いいよ。俺は、乃亜が恋人だって皆に言いふらしたい」

「…変な目で見られるかもしれへんで?」

「いい。乃亜に熱い視線を注がれるよりも全然いい…」


 何を言ってるんだと、目を見開いて旭を見る。

 一体誰が僕に熱い視線を注ぐと言うんだ。

 熱い視線を注がれてるのは、旭の方なのに。

 でもそうだな。旭が僕の恋人だって知れ渡ったら、旭を好きな人も諦めてくれるだろうか。


「ふっ、大きな目。乃亜は綺麗な目をしてるよな」

「なんやねん…。さっきから褒め過ぎやん…」


 旭の視線から逃れるように俯いて、握りしめたペットボトルを見る。


 僕の目なんか、褒めないで。

 僕の目は、旭とは違うんだ。

 僕の目は、気持ち悪い。とても禍々しく、赤く光るんだから。


 僕の本当の目を見た時に、旭はどんな反応をするんだろう。


 そう頭に浮かんだ考えを振り払うように軽く首を振ると、僕はミルクティーをゴクゴクと飲んだ。

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