第15話

 長い夏休みが終わり、学校が始まった。

 後期の講義も、旭となるべく時間が合うように選んだ。でも、どうしても全部を合わせることは出来なくて、月曜日は旭が僕より早く終わり、金曜日は僕が旭より早く終わることになってしまった。


「旭、僕が遅い日は先に帰っていいよ」

「は?帰るわけないだろ。待ってるから一緒に帰るぞ。乃亜が早く終わる金曜日も、絶対に待っててくれよ?図書館とかカフェとか、人がたくさんいる所にいるんだぞ?」

「うん…わかった。でもなんで人がいる所?」

「この前みたいな不法侵入の変な奴が来たら困るじゃん。周りに人がいたらまだ大丈夫だろ?」

「ふ~ん。旭は心配性やな」

「当たり前だろ?乃亜は俺の大切な恋人なんだから」

「こっ…!」


 後期の初日に、小腹が空いたからと寄った大学の敷地内にあるカフェで、軽食を食べながら話をしていたら、旭が甘い目をして小っ恥ずかしいことを言った。

 僕は、周りに聞かれてやしないかと慌てて確認したけど、みんな騒がしく喋っていて誰にも聞かれてはいないようだ。


「ん?どうした、乃亜」

「旭っ、僕達兄弟と周りには思われてるんやで?こ…恋人とか聞かれたら、どうするん…」

「別に聞かれてもいいよ。そうすれば乃亜を取られないだろ」

「なんやそれ。誰が僕を取るっちゅうねん」

「乃亜さ、知らないの?おまえは綺麗だから結構注目浴びてるんだよ?俺の乃亜なのにさ、みんなジロジロ見るなよな」


 旭が面白くなさそうにアイスコーヒーのグラスを持って、ズズっとストローからコーヒーを吸い上げる。

 その様子を見て、僕は「それは旭の方やん…」と呟いた。


「ん?何か言った?」

「旭こそ、どうなんだよ。よく女の子に声かけられてるやんか…」

「え?そうだっけ?俺、乃亜のことしか見てないから、全然気にしてなかったわ」


 サラリと口をついて出た旭の言葉。

 ちょっとモヤモヤしてた僕の気持ちが、一瞬で晴れてしまった。

 今までも旭が傍にいるだけで幸せだと思っていたけど、相思相愛になった今は、以前と比にならないくらい幸せだ。

 たとえ僕が吸血鬼だとしても、この世に産んでくれた両親に感謝する。

 本当に、この幸せが永遠に続きますように。そして旭に気づかれることなく、ずっと人でいられますように。


 そんな僕の願いが、脅かされようとしている。

 僕の仲間だという、月島 倭によって。


「乃亜くん!久しぶり。夏休み何してた?」


 テーブルの上に置かれた旭の手に、僕の手を重ねようとしたその時、背後から今一番聞きたくない声が聞こえた。



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