第14話
旭がケーキを食べ終わるのを待って、大学を後にした。
帰りに駅前のビルの中にあるショップで、色違いのTシャツを買った。旭が黒で僕が青。
本当は旭は白が似合うから白を勧めたのだけど「汚れが目立つから嫌だ」と拒否された。
「乃亜の方が白が似合うよ」
そう言って、旭が僕にTシャツを合わせてきたけど「僕も汚れが気になるから嫌や」と逃げた。
僕が白?似合うわけないじゃないか。僕は吸血鬼だ。今でこそ人間の血肉を喰らってはいないけど、本質は血をすする化け物だよ?そんな僕が白を着れるわけがない。
暗い思考に囚われて顔を伏せた僕に、旭が明るい声をかける。
「まあ乃亜は何でも似合うからな!じゃあこの青はどう?綺麗な色だよ。俺は落ち着いて見える黒にするから」
旭に言われて、僕は顔を上げて見る。
汚れのない白や血を思わせる赤じゃなければ何でもいい。
僕が「うん。それにする」と頷くと、旭は嬉しそうにTシャツを二枚持って、店の奥へと入って行った。
その後、外出したついでにと、おじさんの病院に寄った。
明日が点滴をする日だったけど、明日また出てくるのは面倒だからと今日してもらう。
点滴が始まってしばらくは、椅子に座って僕と話していた旭が、お腹を押さえて「トイレっ」と出て行った。
旭と入れ違うように、様子を見に入って来たおじさんに今日のことを話す。
「おじさん、今日大学で僕の仲間だという人に声をかけられた。僕と仲良くなりたいんやって。あんまり好かへん人やったから断ったけど、あいつ、また話しかけてくると思う…」
おじさんは「その人の名前は?」と静かに聞く。
「ん…、確か、月島 倭って言ってたな」
「月島…」
おじさんはそう呟くと、視線を下げて黙り込む。
僕は、ベッドからおじさんを見上げて首を傾げた。
「おじさん?」
「ん?ああ…。月島という名の吸血鬼は、聞いたことがないな。たぶん使われる側の吸血鬼だと思う。使う側の吸血鬼と比べたら大したことはないが、乃亜に近づいて来たということは、何か企んでるのかもしれん。乃亜、よく気をつけるんだよ」
「うん。でも、あまり面倒なことにはなりたくないなぁ。旭にバレてしまうやん…」
天井を見て、ふぅ…と息を吐く僕の頭を、おじさんが優しく撫でる。
「まだ旭には知られたくないか?」
「うん、知られたくない。出来ればずっと…」
「そうか…」
その時、廊下から「イタタ…」と呻く旭の声がして、おじさんがスっとベッドから離れた。
「また後でな」と言っておじさんがドアを開けると、そこにはお腹を押さえた旭がいた。
「なんだ、おまえ。腹を下したのか?」
「あ、父さん…。そうなんだよ。俺、何か悪い物食ったかなぁ…」
「後で整腸剤を持って来てやる。乃亜の隣で休んでろ」
「わかった、そうする」
おじさんが出て行くと、旭が入れ違いで入って来て僕の隣に上がってくる。
「え?何してんの?」
「乃亜の隣で休ませて?俺、マジで腹痛いんだよ…」
「旭…ケーキが美味いって、二つも食べたからちゃうん?」
「やっぱりそれかな…。あ~、でもこうやって乃亜とくっついてたら痛みが引いていく…。乃亜がキスしてくれたら治ると思う」
「は?そんなんで治るわけないやん」
「治る。乃亜、ん…」
目を閉じてタコのように唇を突き出した旭を、僕は呆れて見つめる。
旭の腕が僕の背中に回され、身体が密着する。チュッチュと僕の顔中にキスをして、また「乃亜?」とキス待ち顔をする。
僕はだんだんと可笑しくなって吹き出してしまい、仕方ないなぁと旭の頬を両手で挟んで、突き出た唇にキスをした。
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