第13話

「だ、誰?」

「俺は月島 倭(つきしま やまと)。倭って呼んでいいよ、乃亜くん」

「なんで僕の名前っ…」

「ん?だって、ずっと見てたから知ってるよ。俺、君と仲良くなりたいと思ってたんだ」


 なんで?とまるで不審者を見るような目で、男…月島を見る。


「ひどいなぁ。そんな目で見ないで欲しいよ。だってさ、俺と君は仲間なんだよ?こんなに大勢の人がいる中で、数少ない仲間を見つけたら嬉しくて仲良くしたいって思うじゃん?」

「…仲間?仲間って何やねん」

「ん?あれ?最近匂いが変わったから話しかけたんだけど…。知らないの?もしくはとぼけてるのかな?」

「あのさ、あんたが僕と仲良くなりたくても、僕は仲良くなりたくない。あんたとは、はっきり言って合わへん。もうすぐ連れが戻って来るからどこか行ってくれへん?」


 月島の目が、スっと細められる。その目が一瞬赤く光ったように見えて、ドキリとする。


「わかった。今日は帰るよ。また今度ゆっくり話そう。ふふ、そのうち君の関西弁で罵られてみたいねぇ…。ゾクゾクするよ」


 最後、意味のわからないことを呟きながら、月島が席を立ち手を振って離れて行った。


 あいつ、仲間って言った…。それに目が赤く光った?もしかして…。


 そこまで考えて、勢いよく首を左右に振る。


 違う、僕は人間や。もしあいつが吸血鬼だったとしても僕には関係ない。だからもう二度と、僕には近寄らないで欲しい。


 皿に一口残ったケーキを見つめて、今頃になって早鐘を打ち始めた胸を手で押さえる。

 その時、いきなり肩に手を置かれてドクンと心臓が跳ねた。


「乃亜?どうした?気分が悪いのか?」


 横を向くと、旭が心配そうに覗き込んでいる。

 僕は無理に笑顔を作って言う。


「大丈夫や。旭が遅いから待ちくたびれたんや」

「そう?だって、ケーキも残してるからさ」


 そう言いながら、旭が僕の額に手を当てる。


「ん~、熱はないようだな。ごめんな、俺に付き合わせて。でも家に乃亜を一人置いて行くのは嫌だったし、俺が離れたくなかったから…」

「大丈夫やって。僕も旭の傍を離れたくなかったし、ここのケーキを食べたかったからええねん。な、旭。このシフォンケーキめっちゃ美味しかったで。旭も食べてみてよ」

「乃亜、本当に大丈夫か?」

「うん。もう少しここで旭とゆっくりしたい」

「そっか。じゃあ俺もそのケーキ食べようかな」


 旭が僕の頭を撫でて、ケーキを注文しに席を離れる。

 旭の背中を見つめていると、ふと視線を感じて振り向いた。

 ここからかなり離れた建物の影になる場所から、月島が僕をジッと見ていた。

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