第43話 極楽天福良20
月は実力派冒険者にうまく取り入ったようだった。
「事情はわかりますので怒ったりはしないのですが」
目が会った時、随分と動揺しているように見えたので福良が気分を害したとでも思ったのかもしれない。
だが、福良には特に思うことがなかった。月が冒険者たちと魔界を横断することを決めたとして、福良には関係のない話だからだ。
彼らは教会に滞在するようだし、月も付いていかないと駄目なのだろう。福良に報告する時間がないのならそれは仕方のない話だ。
福良は掴んでいた手を放し、着地した。そして、月に手を振ってみせた。
なんとも思っていないとアピールしたつもりだが、月の顔はよりひきつったように見えた。
「近づくと話がややこしくなりそうですし、後でメッセージを送っておきましょうか」
一人なら助けられるといった話が聞こえていたので、似たような境遇の人物が増えると困るだろうと思ってのことだ。
このまま見送っていてもよかったが、月が気まずそうなので福良はとりあえず集会所の中へと戻った。
『そのメッセージなのですが』
スマートフォンのAIアシスタントが話しかけてきた。
「月さんから届きましたか?」
『いえ、ブロックされましたのでメッセンジャー機能での連絡は今後できません』
「そんな機能があったんですね」
少しばかり呆れてしまったが、これをもって月の意思表示だと福良は判断した。ここからは別行動をするという表明だ。
一通り用事は済んでいるので、福良は借りている部屋へと向かった。階段を上り集会所の二階へ。月が慌てて飛びだしたのか、扉は開けっぱなしだ。部屋に入り、ベッドに腰掛け、福良は今後のことについて考えることにした。
目的地であるマテウ国方面に向かうとして、どうするべきか。
一番の障害はその経路に立ち塞がる魔界なので、その攻略について考えるのがよさそうだ。魔界について調べて出来るかぎりの準備を行うのがいいだろう。だが、福良は魔界そのものについては考えるだけ無駄という結論に達していた。
魔界の環境は刻一刻と変化しているらしいし、魔物は魔法という不思議な力を使うらしい。つまり、何が起こるかわからない場所を、何をしてくるかわからない敵に対処しながら進むしかなく、臨機応変に対応するしかないのだ。
「んー、そうなると考えておくべきは私のことでしょうか?」
持ち物、自身の能力、九法宮学園の生徒をとりまく謎のシステム。これらについてなら予め考えておくことはできるはずだ。
福良はまず手持ちのアイテムを確認していくことにした。
九法宮学園の制服。HPを強化する力があるので防御力に期待出来る。
スマートフォン。学園から支給されたもので、謎のアプリがプリインストールされている。各種のシステムにアクセスするインターフェイスでもある。謎の店でAIアシスタントのシャノンをインストールしたため、音声で操作することができるようになっている。
トレッキングブーツ。謎の店で購入したもので、足裏に力場を発生させることで多段ジャンプができる代物だ。
駄獣の鈴。荷物運び用の獣に呼びかけることが出来る鈴。ただし、協力してくれるかは相手次第。試しに使ったところ巨大ひよこのひよちゃんがやってきたが街の中まではついてきてくれなかったので、信頼性にはとぼしい。
魔法の袋。ひよちゃんにもらった見た目以上に物を収納できる袋だ。入れすぎると重くなるので無制限に収納できるわけではないが、便利なことは間違いない。
お膳。一日三食の食事が出てくる。これがあれば食料については考えずにすむので日程不明の冒険ではありがたいアイテムだ。一人分しか出てこないので、単独行動向けだろう。
小石。投擲用にと拾ったもの。制服のポケットに入れてある。
小型の盾。前腕部に着けられる軽装防具。
野営道具一式。寝袋、テント、調理道具など野営に必要なものがまとめられたセット商品。
灯の結晶。瘴気を浄化する力の込められた結晶で砕いて使用する。炎による火起こしが可能で、魔界産の素材を調理するにも必要。
謎の店のポイントカード。四億九千八百九十四万九千五百ポイントが付与されている。
「そういえば、このカードがあればいつでも店に行けるということでしたが具体的にどうすれば?」
行き方を聞いていなかったことを福良は思い出したが、どうにかなるだろうと楽観的に考えた。偶然迷いこんだ店なのだから、また偶然辿り着くこともあるだろう。
持ち物はこんなところなので、自身の能力についても考えていく。
壇ノ浦流弓術。福良が小学五年生頃から習っている古武術だ。弓術を名乗ってはいるが、弓だけに限らない総合的な戦闘術になっている。ただ、壇ノ浦流は壇ノ浦一族の頑丈な体質を前提とした武術であり、一般人では使いこなせない。そのため福良の護身用に調製されたものを修行していた。特に投擲術を重点的に習得している。
平均的な女子高生を上回る身体能力。武術の修行過程で鍛えられたものだ。特に逃げ続けるためのスタミナ、走力、跳躍力には自信がある。
極楽天家の強運。普通なら運などという曖昧なものを能力として捉えることはできないが、極楽天家はその強運で栄えてきた一族であり、運には強弱があると考えている。福良も当たり前のように自分は運がいいと認識していた。
「よくわからないのはこのステータスとかのところですね」
福良たちをとりまく謎のシステムについても考えていく。スマートフォンの初期設定を行った際にステータスとやらが適用されたようで現状は次のようになっていた。
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[ステータス]
レベル :5
ジョブ :スカベンジャー
:レイジィキング
HP :50/50
MP :50/50
体格:1
美貌:1
感覚:1
魔力:1
幸運:30
アチーブメント
・イレギュラービクトリー「ステータス設定前に敵を撃破」
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[スキル]
スキルポイント:1
知力スキル
・共通言語理解
感覚スキル
・動体感知(1.08)
幸運スキル
・経験値アップ(1.03)
・ブラッディパーティ(1.05)
スカベンジャースキル
・コンテナボーナス(1.00)
・スカベンジャーポケット[九法宮学園の制服(女子)右ポケット]
レイジィキング
・奇縁(1.03)
・アイテム自動回収(1.01)
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ジョブは普通は一つらしいが、二つ設定されている。ジョブごとに取得出来るスキルに違いがあるようだ。
HPはダメージを防ぐバリアのようなものらしい。いつの間にか全回復しているが、これは食事をしたためだろう。基本的なHPの回復手段は食事と睡眠とのことだった。
MPはアクティブスキルの使用時に消費するリソースらしいが、福良のスキルは全てパッシブで自動的に発動しているので今の所は意味がなかった。
ステータスの各値はレベルが上がっても変動しない。体格を上げれば筋肉が増えて大柄になり、美貌を上げれば容姿が変わる。感覚、魔力、運は主にスキルの効果に影響があるとのことだ。
スキルの後ろの数字は熟練度で使用する毎に効果が増大する。数字がないものは熟練度で効果が変動しないスキルだ。
「さて。このあたりよくわかってないままなのは問題な気がしますね」
なんとなく使っているが詳しくはわかっていないし、思っていた機能とは違うことがこれまでにもあった。
AIアシスタントのシャノンは聞けば答えてくれるが、気を利かせて付随する情報などを教えてはくれない。何を知りたいか明確にする必要があるのだ。
幸い、とりあえずやることは済んでいるので明日の出発までは時間がある。
福良は、この機会にシャノンからわかる限りのこと全てを聞き出すことにした。
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