第44話 天堂龍太郎1

 天堂龍太郎は超能力者だ。

 超能力といってもサイコキネシスのようなよく知られた能力ではないのだが、説明はとても簡単だ。

 彼の能力は、合成音声で喋るまんじゅうのような生首が二つあらわれてあらゆる事柄を解説してくれるというものだからだ。


【天盤世界】序盤攻略5選 初心者必見! 知らなかったら後悔するテクニック、コツ、稼ぎ!【ネタバレなし】


 こういったタイトルとサムネイル画像が脳裏にいくつかあらわれ、見ようと思えばその内容が眼前に展開される。

 思い通りになんでも知ることができるわけではないが、大体は状況に応じたタイトルがおすすめとして表示されるようになっていて、これから先の効率的な対応方法を知ることができるのだ。


  *****


・その1、チュートリアルはスキップしても問題ない。むしろ飛ばせ


『チュートリアルって教会の人が来て説明してくれるやつよね? 見といたほうがいいんじゃないの?』

『世界観とかを楽しみたいなら見てもいいんだが、知ったからって攻略の糸口にならないしいち早く行動したほうがいいんだぜ!』

『いち早く動いて何かメリットはあるの?』

『ああ、アイテム入手は早い者勝ちだからな。まあ他のやつらは何もわかってないだろうしおそらく何もできないだろうけど』

『だったら教会の人についていかなくてもいいんじゃないの?』

『いや、仲間は何人か欲しいんだよな。チュートリアルを開始しなかったらそのチャンスがないんだよ。なのでチュートリアルを途中退席だ。すると釣られて何人かついてくるからその勢いで街を出てくれ。ここでとろとろしてると仲間が考え直すかもしれないからな』


・その2、ステータス選択は魔力一択。他は全部罠だ!


『体格、美貌、感覚、魔力、運の五つだっけ。ちょっとはバランス考えたほうがいいんじゃ?』

『じゃあ一通り解説していくぜ! 体格はそのまんま体格がよくなる。筋力が増えてパワーも増し増しだぜ!』

『だったら必要なんじゃないの? 戦闘があるわけでしょ』

『ああ、これからの説明は戦闘を勝ち抜くためのものだぜ! でだ、確かに筋肉は増えるんだが、極振りしたところでいいところボディビルダーかプロレスラーってのが限界なんだよ。つまり強化されるって言っても人間が鍛えまくったら到達できる範囲まででしかないんだ。そんなもん異世界の魔物に通用すると思うか?』

『そう言われても魔物の強さなんて知らないし』

『じゃあゴリラとかヒグマでもいいぜ』

『……無理そうね。もちろん魔物はそれ以上に強いのよね?』

『そうだぜ! 魔物の強さもピンキリだから弱いのもいるけどな!』

『それでもちょっとはあったほうがよさそうな気もするけど』

『そのあたりは後で説明するとして次は美貌の説明だ。これは容姿がよくなるんだ。増やすほど本人が理想とする姿に近づいていくぜ! 細マッチョにしたい場合は体格だけに振ってもだめだから、こっちにもある程度振る必要があるんだぜ。ま、クソほども戦闘の役には立たないけどな』

『じゃあ体格と美貌は見た目だけってこと?』

『そうだぜ!』

『でもちょっとぐらい振ってみたくもあるわ!』

『見た目気にしてて死んだらなんの意味もないからな! 生存優先ならやめとけって思うぜ!』

『じゃあ次は感覚ね。これは?』

『増やすと敵の気配なんかを感じ取れる範囲が広がるぜ! 1で半径10メートル。2で20メートルと、5で50メートルと10メートルずつ増えるんだ。感覚系のスキルはこの値を参照するんだぜ!』

『それむちゃくちゃ便利なんじゃないの? 半径ってことは背後の気配とかわかるんだよね? 10メートルの時点でノブナガの円よりすごいんだけど? 50メートルだと人間離れしてるじゃない』

『まあだからって達人みたいに反応できるわけじゃないけどな。スマホ見ないとわかんねぇし』

『どういうこと?』

『急に気配がわかるようになるって言われても無理だろ。敵の位置とかがスマホの地図に表示されるってことなんだ。無意味とは言わんけど、戦いながら確認はまず無理だな』

『うーん、隠れてる敵を事前に発見できるんなら無意味じゃないと思うけど……』

『魔力は最後に説明するとして運の説明だ。これは文字通り運がよくなるぜ! けど運がよくなるってどういうことかわかんないよな?』

『まあね。具体的に何がどうなんのかさっぱりだし』

『そんなに難しくはないぜ。確率が関係する全てに効果があるんだ。たとえば状態異常スキルが発動するかとか、攻撃威力のばらつきとかな。運のステータスはその確率をプラス方向に増加させるものなんだぜ!』

『じゃあほぼ全ての事象に関係ありそうな気がするから無意味とはいえないんじゃない?』

『そう、ただ攻撃するだけでも威力が上振れする可能性が増えるしな! だけど運が罠ステータスなのは単純に効果が低いからなんだぜ! 運はステータスの数値ごとに0.01%プラスされるだけなんだ。最大ボーナス値を全て運に割り振った場合30までいくんだけど、それでも0.3%の効果しかないんだよな。たとえば10%の確率で発動する麻痺攻撃があったとして10.3%の発動率に。攻撃ダメージ補正50~100%が50.3%~100.3%になるんだぜ! まったく意味がないわけじゃないけど、あまりにもコスパが悪すぎるんだ』

『なるほど……というか今さらすぎるし無粋かもしれないけど、なんだって異世界転移したらこんなシステマチックな能力を得てるわけ? ほら、私たちも龍太郎の能力なわけだけど、ふんわりした感じじゃない』

『ネタバレなしだから詳細は言えないんだが、バトルソングと呼ばれる上位存在の作ったゲームのシステムを人間に理解できる形に翻訳したらこんな感じになったんだぜ! だからコンピューターゲームに親しんでる現代人向けだとこうだけど、江戸時代の人間とかなら別の表現になるんだと思うぜ!』

『なるほど。なんとなく私たちの同類かと思ってたけど全然違ったのね。じゃあ私たちって……』

『話がそれすぎたから戻すぜ! 魔力についてだ。魔法が使えるようになるぜ! 以上!』

『以上! じゃないのよ。他は全部罠って言ったじゃない。そこを説明しろっての』

『魔法が万能過ぎて体格のパワーとか感覚の気配感知なんかを代替できちまうんだ! だから魔力だけあれば十分だし、他を選ぶ理由がまったくないんだぜ!』

『上位存在、あほなの?』

『それは俺も思うぜ! まぁさすがにあれすぎたと思ったのか、一応物理ジョブにも活躍の余地は残されてるんだぜ! あ、ジョブの説明をしてなかったが、魔力極振りなら魔法使いになるしかないので他のジョブの詳細は省くぜ!』

『物理ジョブってのが鍛えた人間程度なんでしょ? それで魔法に対抗するって無理ゲーじゃない?』

『それがジャストガードとジャスト回避なんだぜ!』

『用語感を統一してもらえないかしら?』

『ジャストガードは攻撃を食らう直前にガードするとあらゆる攻撃を完全無効化した上にはじき返せるんだぜ! ジャスト回避はギリギリで避けるとバレットタイムが発動するんだ!』

『一見強そうだけど……直前とかギリギリってどれぐらいを言ってるの?』

『3フレーム、攻撃が当たる0.05秒ぐらい前だな!』

『それ、失敗するとどうなるの?』

『無防備な状態で攻撃をもろにくらっちまうぜ! あ、無防備ってのはHPのバリアを素通りするってことな。生身に喰らうからファイアボールぐらいでも即死だぜ!』

『上位存在、あほなの?』

『失敗した場合のリスクがでかすぎてうかつにやれないんだよな。だからジョブバランスまったく取れてないんだぜ!』

『クソゲーすぎてこんなの強いられてるプレイヤーが可哀想だわ』


・その3、いきなり最強クラスの武器をゲットだ!


『次はいきなり最強クラスの武器をゲットする方法だ! これでしばらくはヌルゲー気分を味わえるぜ!』

『いいじゃない。こんなクソゲー最強武器でさっさとクリアしちゃうに限るわ』

『これがチュートリアルスキップしてさっさと行けって言った理由だな。スタート地点の街を出て少し進んだ荒野のこのあたりだ! 詳しくはこの画像を参考にしてくれ!』

『何もないように見えるんだけど』

『ちょっとした隆起があるだろ? このあたりに見えない宝箱があるんだ。そのあたりを手探りで探してみてくれ』

『むちゃくちゃうさんくさいんだけど大丈夫なの?』

『バグだか設定ミスだか仕様だかはわかんないぜ! でも手に入るんだからもらっとけってもんだ。ここで入手できるのがこれ、屠龍の大剣だ! カテゴリーは重装武具だな』

『モンハンの大剣ほどじゃないけど結構な大きさね。非力な魔法使いじゃ使いこなせない気がするんだけど』

『装備適正ってのがあってな。魔法使いだと重装武具適正がなくて装備しても重くて振り回せないんだぜ』

『じゃあそんなの取っても駄目じゃない! 仲間に使わせるとか、売るとか?』

『この武器の活用方法は次の項目とセットなんだ。あと間違っても装備はすんなよ。持ってるだけなら大丈夫だけど、装備すると動けなくなるからな』

『所持と装備の違いはなんなのかしら……』


・その4、これだけ使っとけ! おすすめ魔法はこれだ!


『まず魔法について軽く説明しておくとジョブが魔法使いの時に習得できるスキル、それが魔法なんだ。最初から使えるのはファイアボールだけなのでおすすめも何も最初はこれを使うしかないな』

『じゃあどうすんのよ』

『まずはレベルをあげる。レベルが上がるとスキルポイントが増えるので、それでスキルを取得だな。森の中に入って何か適当に倒してくれ』

『ふんわりしすぎじゃない?』

『仕方ないだろ。魔界で何が起こるかまで事前に予測できねぇんだから。まあ入ってすぐなら魔物もそんなに強くないはずだ。魔法の使い方にもいくつかあるんだが、ここでは手動エイムでやってくれ。具体的には敵を指さして「ファイアボール」と発声するんだ』

『なんとなく弱そうな魔法だけどどれぐらいの威力なの?』

『火炎瓶を投げつけたぐらいだな。可燃性のなんかが飛び散って対象を包んで着火する。全身隈なく燃えさかるから普通の生き物ならだいたい死ぬぜ! 近づくと延焼に巻き込まれるから十分に距離を取るのがコツだな!』

『そんなの森で使っていいのかしら……』

『ファイアボール程度で環境破壊できるならこの世界の人間は苦しめられてないぜ! だから気にするな! なんでもいいからまずは一匹倒せばOKだぜ! それで1ぐらいはレベルがあがるはずだ』

『じゃあここからが本当のおすすめね』

『ここで選ぶのは、ワンダリングブレイド。剣を操る魔法だぜ!』

『ああ、さっきの大剣はこのために?』

『その通り。これはマジでぶっ壊れで、威力は剣の攻撃力に依存するんだ。で、この魔法が壊れてんのはコスパだ。通常の魔法は威力が上がると相応のMPを消費するんだけど、これはレベル2から習得できる魔法だから消費MPが低いんだぜ! しかもMPが消費されるのは発動時のみ。一度発動すれば自動的に敵を攻撃しつづけるんだ!』

『都合良すぎない?』

『よすぎるんだが、それを可能にしてるのが屠龍の大剣だな。この魔法、実はそんなに使い勝手がよくないんだ。武具には耐久力があって、それをゴリゴリ消費し続けて壊れたら終わりだ。普通なら二、三回攻撃して武器を使い捨てにするのが一連の流れなんだが、レジェンダリー武器は壊れないからいくらでも使えちまうんだ!』

『上位存在、あほなの?』


・その5、パーティアタックで超速レベルアップ!


『あとは序盤の経験値稼ぎについてだ。とりあえずここまで済ませればしばらくは楽勝だぜ!』

『あれね、FF2ね』

『あれは成長システムをうまく利用して効率化を図るってだけだし、地道な作業だぜ? でもこれは無茶苦茶単純なんだ。連れてきた仲間を倒すだけだぜ!』

『いいの、それ?』

『ああ、仲間を連れてくるのは経験値にするためだけだからな。ただし! プレイヤー登録は必ずさせること。そうじゃないと現地人殺すのと同じだからな。プレイヤーの経験値はむちゃくちゃおいしいんだぜ』

『そうじゃなくて倫理的な問題なんだけど? クラスメイトでしょ?』

『そう言われてもな。こいつらめいれいさせろが使えないドラクエ4の仲間みたいなもんだぞ? どう動くかわかったもんじゃねーし、そうなると俺だって指南のしようがないぜ!』

『うーん……たしかにこの動画が見えるのは龍太郎だけだし、仲間が理解して指示に従ってくれるかは怪しいものよね』

『そもそもこれはソロプレイ用動画だからな。パーティで進めたいなら別の動画を探してくれ!』


  *****


 九法宮学園での入学式を終えた天堂龍太郎は見知らぬ場所にいた。

 あまりにも殺風景な、龍太郎からすれば廃墟のような場所だ。そこに、同じく入学式後の生徒らしき者たちと一緒にいる。

 普通なら混乱する状況だろうが、龍太郎はすぐに能力を発動した。

 ゆっくりチャンネル。

 どんな状況だろうと確実に対応方法を教えてくれるこの能力に、龍太郎は絶大な信頼を寄せていた。

 動画を見ていると周囲の様子はわからなくなるが、その間は時間が止ったようになっているのでいくつかの動画を視聴して状況を把握する。

 異世界転移らしい。

 ネタバレなし動画しかおすすめには出てこなかったので詳細はわからないが、これからするべきことだけはわかった。

 龍太郎は、素直に動画の序盤攻略情報に従った。

 なにやら説明してくれるという女がやってきたので、とりあえずは教会までついていき途中退席する。すると三人付いてきたので、スマートフォンの初期設定について教え、ステータスなどについても解説した。体格を選んで防御力を上げるか、感覚を選んで事前に敵の位置を知るのが重要だと説明する。

 信頼を得るのは容易だった。彼らからすれば、龍太郎は自信に満ちていて迷いがないのでとても頼もしく見えたことだろう。

 街を出て荒野で大剣を入手し、森に入ってレベルを上げ、ワンダリングブレイドを習得し、試し切りを行った。

 ワンダリングブレイドは、とんでもない威力だった。

 飛んでいった大剣が三人を真っ二つにし、ついでとばかりに周囲の樹木も切断していったのだ。今は戻ってきて、龍太郎の頭上でゆっくりと回転しながら待機している。

 面識のない、ただ同じ学校に入学しただけの他人とはいえ、真っ二つにして何も思わないわけではない。多少は罪悪感を覚えていた。

 だが、それは多少にすぎない。龍太郎はすぐに仕方がないと割り切っていた。なぜなら、動画に従っていれば間違いないからだ。

 犯罪だろうと、倫理に悖ろうと、最終的にはなんの問題もなくなる。自分で考えたところで効率が悪いだけ。何も考えずただ動画通りに行動するのがもっともうまくいくやり方だった。

 多少の罪悪感で、確実に成功するとわかっている手段を手放すわけにはいかなかったのだ。


「た……すけて……」

「お、体格にもちょっとは意味あったのか?」


 体格に極振りして戦士になった少年はかろうじて生きているようだが、状況を把握できていないようだ。


「あ」


 大剣が飛んでいって少年の首を刎ねた。


「これどうやって止めたらいいんだ?」


 さすがにずっと出ているのも困る。龍太郎は参考になる動画がないかと探し始めた。

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