第29話 極楽天福良14
福良と月は森の中にある道の真ん中に座って語り合っていた。
すでに断片的に聞いた話もあるが、これまでの出来事を共有しているのだ。
「新入生全員が対象なのでしょうか?」
「さあ? 一学年二百人ぐらいだっけ? どのあたりでおかしいって気づいた?」
「講堂を出て少し行ったぐらいでしょうか? 一瞬であたりが森になったように思えました」
「私もそんなぐらいだったような。つまり、講堂から出てすぐのところに異世界への入り口があって、次々に入り込んでいった?」
「そして、出てきたところはそれぞれ別の場所だったということですか」
「学校がなんかやってるってことだよね? この怪しいスマホも学校支給だしさ」
「関与していることはまず間違いないでしょうね」
「何がしたいんだよ! こんな組織的なのデスゲームぐらいしか思いつかないんだけど!」
「デスゲームだとすると、ルールの開示が不完全に思えますが、可能性としてはあるんでしょうか」
何らかのゲームにしては、あまりにも放置しすぎだろう。最低限の目的ぐらいは説明しないと、ただわけがわからないまま死んでいくだけになってしまう。
「東側にまともな国があるってことだったけど」
「東側ですか。もしかしてこれが関係あるのでしょうか?」
福良は端末に地図を表示させ、縮尺を最小にした。かなり東の方に、星型のマークが表示されている。
「他にはこんなマークないんだよね? だったらやっぱりここに行けってこと?」
「そうですね。スマホに入っているデータは一通り確認してみたのですが、他にはそれらしき情報はありませんでした」
「シャノン。あんたはこのマークが何かしらないの?」
『スタンプ機能によりマーキングされたものですね。意図まではわかりません』
「この事態についてもあんたは何も知らないと?」
『はい。私はバトルソングというシステムのAIアシスタントに過ぎません。ゲームの意図はわかりかねます』
「うーん。このスタンプは最初から入ってたわけだし、意図はあるよなぁ。これで関係ありません、だと何も信用できなくなるんだけど」
「途中で会ったフェアリーの方はそちらは危険だとおっしゃってましたね」
「でもなぁ。このあたりに居続けるのも危険なんだよなぁ……この道をずっと東へ行けば……」
「白い道が安全とも言いきれないんですよね。確かに効果はあるようなんですが」
基本的にモンスターの類いは白い道を避けるようだ。だが、強力なモンスターがお構いなしにやってくることを福良は知っていた。
「道がそのマークまで続いてるとも限らないしなぁ」
「やはり街には行くべきでしょうか。物資の調達、情報収集など必要ですし」
「今さらだけど、あいつらと顔あわせるのはなぁ……」
月を置いていった者たちのことだろう。確かに会いたくはないだろうが、福良は同じ事情の仲間が増えるほうがよいと考えていた。
「街は安全なんですよね?」
「うん。そこは間違いないと思う。中央聖教っていう宗教が仕切っててさ。ここらで生きるには頼るしかなくて誰も逆らえないんだよ。灯ってのでモンスターを避けられるんだって」
「灯ですか。それはこの光っているものですか?」
福良は道を指さした。
道の真ん中には光る石が等間隔で埋め込まれている。この輝きがモンスターを寄せ付けないようなのだ。
「そう。で、モンスター避けだけじゃなくてさ、食料もなんだよ。このあたりで食べられるのはこの森のものだけなんだけど、それはそのままじゃ食べられなくて灯で調理する必要があるんだって」
街周辺は荒野になっていて、人以外の生物が存在していない。家畜を飼うこともできなければ、農業を行うこともできないのだ。
食料を支配されているのだから、どれだけ考えなしの馬鹿でも中央聖教に逆らいはしないだろう。
「そういえば月さんの所有権なんですが」
「それなぁ……変なおっさんに持たれたままよりは大分ましなんだけど……返し方わかんないんだよね?」
「はい。所有権を持っていない人、というのがどうもバグってる状況のようですよね」
所有権をやりとりする主体が、所有権を持っている個人になっている。そのため、所有権のない存在に、所有権を渡すということができないようなのだ。
「いきなりおっさんに迫られてわけわからんかったんだけどさ。冷静になって考えるとこれむちゃやばない? そんなちょっと口にしただけのことがほんとに影響あるなんてさ」
「口約束であろうと強制力が働くわけですね。発言には気を付けないといけませんが……シャノンさん。これはバトルソングとやらのルールなのでしょうか?」
『現状ではそのようなルールを課すアプリケーションは存在していません』
「どのような仕組みなのか、どこまで適用されるのかは確認しておきたいですね。そのあたりも街で聞ければいいのですが」
「やっぱり街は行かなきゃいけないかぁ……」
「どうしても嫌ならば、私だけで行ってきますが」
福良は立ち上がった。仲間はいたほうが何かと便利だろうが強制はできない。そもそも成り行きで助けただけなので、どうしても一緒に行きたいわけではなかった。
「行くよ! 一人で置いてかれるなんて絶対やだよ!」
月が慌てて立ち上がった。
仲間と顔を合わせづらいことよりも、魔物だらけの森で一人になる恐怖が勝ったようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます