第28話 雪花月6

 道中で邪魔が入ることはなく、月たちはすんなりと荒くれ者の集落からの脱出を果たした。

 そのまま福良は迷うことなく森へ向かっていく。仕方なく、月も後に付いていった。


「え? 大丈夫なん? あっちに街あるんだけど?」

「結構距離がありましたし、周囲に何もないところで囲まれると危険かなと思いました」


 言われて月も納得した。

 街までは荒野で何の障害物もない。先ほどの集落から追っ手が来てもまずいし、荒野には他にも集落が点在している。それに街から冒険者がやってくる可能性もあった。

 無策で大勢に囲まれてしまえば、いくら福良が強いといっても対処しきれないだろう。

 森の中にある白い道を辿ってしばらく進み、Y字路に達したところで福良が立ち止まった。


「とりあえずこのあたりで休憩しましょう。月さんの感覚ステータスおいくつですか?」


 逃げ道の選択肢が多少はあるからここで休憩することにしたのだろう。森の中ならいくらでも逃げられそうに思えるが、基本的には安全地帯である道から外れるわけにはいかないのだ。


「あー、その、美貌全フリなんで、1だったような……」

「そうですか。私も1なので変わらないですね。動体感知の感知範囲は感覚ステータスに依存するらしいので、月さんの方が高いなら周囲の警戒はお任せしようかと思ったのですが」

「もしかして、感覚って重要?」

「そうですね。今さらですが、重要そうです。感知系のスキルの範囲に関係するようですので」

「だよね……今さらだから思うけど、重要そうな感じするよね……」


 なぜ美貌に、しかも全てを注ぎ込んでしまったのかと月は後悔した。生存に有利なステータスは他にいくらでもあったはずのだ。


「ステータス値が同じなら若干私の方が周囲の警戒はしやすいかもしれないですね。シャノンさん。動体反応があったら警告をお願いします」

『承知いたしました』

「それ! なんなの!」


 福良がスマートフォンと会話していた。


「ああ! 後で話すと言いましたね。これはパーソナルアシスタントなのですが、不思議なお店でインストールしてもらったのです」

「不思議なお店?」

「霧の中に迷い込むと出現しました」

「……ちょっと理解が追いつかないからそれは後でいいや。それ、私も使えるの?」

「どうですか?」


 福良はシャノンに聞いた。


『可能です。まずはフレンド登録をしてください。アプリのインストール用リンクを共有することができます』

「まあ、フレンド登録とかそーゆーところからわかってないけどさ」

「そーゆーところではシャノンさんは便利ですね。UI階層の奥の方にある機能でもすぐに呼び出せますし。フレンド登録を実行してもらえますか?」


 福良がスマートフォンに呼びかけると、メッセージアプリが起動し、フレンド登録画面が表示された。ここからどうするのかと思っていると『登録するスマートフォンに近づけてください』とメッセージが出てきた。

 月がスマートフォンを取り出し、福良のスマートフォンに近づけるとメッセージが表示された。


『極楽天福良さんからフレンド登録の申請が来ています。承認しますか?』


 承認ボタンを押すと、フレンド登録が完了した。これで、メッセンジャーで福良とやりとりができるようだ。

 さっそくメッセージが表示されたので、月はそこに表示されたリンクをタップした。


「これでいいの?」

『はい。福良様と設定は共有しておりますので、月様の端末でもシャノンというパーソナルアシスタントになります。もちろん、個人データは個別に管理しており共有されることはありませんのでご安心ください』


 月のスマートフォンから声が聞こえてきた。


「一から設定とかめんどくさいからいいけどさ、同じってことはあんたはどっかのサーバーで動いてるってこと?」


 月が気にしたのは、シャノンが端末上で動作するスタンドアローンのアプリかということだ。


『はい。この世界用に構築されたバトルソングサーバー上で動作しております。システムのほとんどは、バトルソングサーバーで動作していますので、スマートフォンはダム端末のようなもの考えてください』

「んー、よくわかんないけど、クラウドゲームみたいなやつってことね」

『概念としては同様かと』

「って! そもそもこのスマホとか、システムとかってなんなんだよ! 福良、わかってんの!?」

「いえ。私もここまで状況に流されてきただけでして、よくわからないというのが正直なところです。ですので、同級生らしき月さんが何か知っておられるかと期待していたのですが……」

「……とりあえず、お互いにわかってること話しあおっか……」


 二人は、道の真ん中に座り込んだ。

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