第25話 極楽天福良12

「ですが、無理そうだからといってこのまま私だけ出て行くのもどうかと思いますね」


 わざわざここまでやってきて、話だけ聞いて帰っていくのはあまりにも無慈悲というものだろう。

 自分の安全だけを考えれば余計なことに首を突っ込むべきではないが、同級生らしき少女を助けたいと思うぐらいの情は福良も持ち合わせていた。


「助けてくれんの!?」

「ですが、一緒には来てくれないと困りますよ? 私にはあなたの所有権を誰が持っているのかわからないんですから」

「それは……まあ、そうか。でも私戦えないんだけど」

「スマホの設定はされたんですよね? それで何か能力が使えると思うんですが」

「その……私のジョブはアイドルで、スキルは歌唱力アップとUVカットなんだけど……」

「歌唱力ですか。ゲームなら能力向上する歌を歌えるとかが定番かと思うのですが」

「純粋に歌が上手くなるだけでバフとかそーゆーのはないし、UVカットも日焼け防止にしか使えない」

「なるほど……」

「そーゆー福良はどーなのよ? 何か戦える力持ってるの?」

「私のジョブはスカベンジャーとレイジィキングですね。スキルは経験値アップ、コンテナボーナス、奇縁、スカベンジャーポケット、ブラッディパーティ、アイテム自動回収があります」

「多いな!」

「レベルが上がってますし」

「けど、聞いた感じ戦えそうな能力でもないような」

「ブラッディパーティぐらいでしょうか。これはクリティカル発生時に爆発が発生するというものです」

「クリティカルってやっぱりゲームみたいなもんなの、これ? ゲームの世界に入り込んじゃったみたいな?」

「どうなのでしょう? ゲームっぽいところもあるような気はしますが、現実ではあるようですし」

「とにかくこれじゃ出ていくこともできないんじゃないの? 福良一人なら出られるかもしれんけどさ」

「そうですね」


 福良は、扉に近づいた。

 取っ手を掴んで押し引きしてみたが、やはり開かなかった。鍵などという上等な代物が使われているような建物には見えないので、外から閂でもかけられているのかもしれない。


「ちょっ! さすがにそれは気づかれるでしょうが!」

「今さらじゃないですか? となると……私が天井の穴から出ていって外から開けるのがてっとりばやそうですが……確認なのですが、このあたりが無法地帯というのは文字通りの意味ですか?」

「というと?」

「一般的に無法地帯というのは比喩じゃないですか。治安の悪い場所がそう言われるだけといいますか。実際にはそこで何をしてもいいわけではなく、警察などに見つかれば逮捕されたりはしますし」

「ああ、そういう意味だと文字通りの無法地帯らしいよ。その警察もいないし、法律とかもないとか」

「なるほど。では、外の人を殺してしまっても、法的な問題はないわけですね。もちろん、お仲間は文句があるかもしれませんが」

「殺すって……マジで言ってる?」

「言っていますよ。私は暴漢を無傷で制圧できるような達人ではありませんので、人を無力化するには殺すしかないかなと思います。もちろん積極的に殺したいわけではないですが、都合良く気絶させたりはできませんし」

「ええぇぇえぇ……」


 月が少しばかり後ずさった。引く気持ちもわかるが、この状況で穏便な方法を探ることに時間をかけていても仕方がないと福良は思っていた。


「てかさぁ。簡単に言うけど、そもそもあいつらに勝てるの? って話なんだけど」

「そうですね。見たところ勝てそうではありましたけど」


 師匠の壇ノ浦知千佳は、敵の強さについて先入観を持ってはいけないと何度も忠告していた。強者が弱者のフリをするのは比較的簡単なのだ。

 とはいえ、常に最大限の強敵を想定していては疲弊してしまう。ある程度は直感に従うしかないと福良は思っていて、その直感によればこの集落にいる男たちは大したことがないように見えたのだ。


「しかし表の人が所有権をお持ちだった場合、無力化すると面倒なことになるかもしれないですし……まずは確認してもらえますか?」

「どうやって?」


 福良は右足を上げ、足裏を扉に押し付けた。

 そして、靴のスイッチを入れて力場を発生させる。二段ジャンプの応用。人一人を宙に浮かせるだけのエネルギーをボロい扉に押し付けたのだ。

 派手な音と共に扉は吹き飛んだ。


「なんだぁ!?」


 見張り番の男が血相を変えて小屋の中を覗き込んできた。


「月さん。この方ですか?」

「……え? あぁ、違う違う! なんかもっと髭面で、あ、こいつも髭面ではあるけど、もっと髭が長くて、背の高い奴だった!」


 呆気に取られていた月が、福良の呼びかけで気を取り直した。


「では」


 福良は制服のポケットから小石を取り出し、見張り番へと投げつけた。

 壇ノ浦流弓術、飛燕とびつばめ

 懐から取り出す動作がそのまま投擲へと繋がる、威力よりも初動の速さに重きをおいた技だ。

 牽制の一撃であり、最悪の場合は当たらなくてもよい。

 だが、福良の放った礫は、狙い過たず見張り番の目に命中した。

 そして、見張り番の頭部が爆発した。


「あ、クリティカルですね」

「クリティカルってそんななの!?」


 見張り番の首から上が消し飛び、倒れた。どう見ても即死だった。


「ね? 勝てたでしょう?」

「こんな勝ち方想像もしてねぇよ!」


 もっと怯えるかと福良は思っていたが、月は案外この状況に適応できているようだった。

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