第22話 極楽天福良11
福良は森と荒野の境界付近、入り口の目印として設置されているらしいポールの陰に潜んでいた。
そこから、近くにある集落を観察している。
同級生らしき少女が縄で縛られて、そこに連れていかれたのだ。集落は板や杭で囲まれていて、ここから見える出入り口は一つだけだった。ボロい板きれで門が作られていて、門番らしき者たちが表に立っている。
馬鹿正直に正面から突っ込んでいけば、すぐに見つかってしまうだろう。すると、仲間を呼ばれるだろうし、多数で遠距離攻撃を仕掛けられたら近づく間もなく殺されるはずだ。
「回り込むしかないですね」
道をそれて森の中を進むことになるが、そこには魔物がいる。道という安全地帯を離れることになるのだ。
だが、福良は躊躇うことなく森に足を踏み入れた。様子を見に行くと決めたのだ。そうするしかないのならそうするだけの話だ。
森と言っても鬱蒼と生い茂っているわけではない。慎重に木の陰を素早く移動していく。集落の側面、門番の視界に入らない地点までやってきて、福良は森から出た。
そのまま集落の後ろまで回ってみたが、そちらには入り口はなく見張りもいなかった。
集落に近づき、塀の側にまで寄った。塀は高さ2メートルほど。板や杭を適当に組み合わせているもので隙間だらけではあるが、人が通り抜けられるほどではなかった。
隙間から中を見れば、塀と負けず劣らずの掘っ立て小屋が建ち並んでいる。人の姿は見えない。スマートフォンで動体感知を確認したが、何か動く者がいるというぐらいしかわからなかった。
中を見られるのだから、時間をかければ建物の数、配置、おおよその人口などはわかるだろう。だが、あまり悠長にしているとさらわれた少女が口を利けない状態にされてしまうかもしれない。主な目的が情報収集なのだから、拙速に動くしかないだろう。
「押せば壊れるような気もしますけど……」
板や杭の隙間を無理矢理広げることはできそうだが、それなりに時間もかかるだろうし、音も出るだろう。福良は塀を乗り越えることにした。
念の為、頭の上に乗っていたひよちゃんはポケットに入れる。
軽く跳び上がり塀の上部に指をかけ、すぐさま身体を引き上げて福良はあっさりと集落の内部に侵入した。壇ノ浦流の修行の成果であり、福良は指先さえかかればそこまで身体を運ぶことができるのだ。靴の多段ジャンプを使ってもよかったが、まだ慣れていないのであらぬところに跳んでしまう可能性があった。
「さて」
少女がどこにいるのかまるでわからないので、適当に小屋を確認していくしかない。福良はスマートフォンで周囲の動体を確認しながら移動を開始した。
まずはすぐそばにある小屋へと近づく。やはり作りが適当なので、壁の隙間から中を覗くことができた。人影が見えた。
はっきりとはわからないが、九法宮学園の制服を着ているらしい人物がいるようなのだ。
角から入り口がある面を覗き込むと、見張りがいた。窓の類いはないので、出入り口はそこだけのようだ。
他に侵入できる場所はないかと確認すると、天井付近に大きな隙間があるのが見えた。換気口なのか、ただ作りが甘いだけなのかはわからないが、福良ぐらいの大きさなら通り抜けることができそうだ。
この隙間もジャンプすれば届くので、先ほどと同じく身体を引き上げて内部へと侵入した。
「!」
中にいた少女が突然やってきた福良に驚愕していた。
福良は人差し指を口にあてた。意図を理解したのか、少女は口を押さえながら寄ってきた。
やはり九法宮学園の女子制服を着た少女で、首元のリボンの色からすると福良と同じ新入生だ。
「え? いや、その、どういうこと?」
少女は小声ではあるが、驚きを隠せていなかった。
「連れていかれるのを見かけたので、様子を伺いに来たのですが」
「助けてくれるってこと?」
「さて。助けられるかどうかはまだわかりませんが、状況は知りたいところですね」
話を聞いてみると、やはり福良と同じ境遇だった。
九法宮学園の入学式後、講堂を出たところで見知らぬ場所に移動していたのだ。福良と違うのは、彼女が移動したのが街の中だったということと、他にも新入生がいたということだろう。
「あー、名前ぐらいは知っとかない? 私は雪花月。月って書いてルナね」
助けが来て安心したのか、気安く話しかけてきた。
「私は極楽天福良です。ふくらすずめのふくらですね」
福は旧漢字なのだが、そこに言及すると煩雑になるのでざっくりと説明した。
「でさ。福良も美貌に極振りしたわけ?」
月は美貌ステータスにボーナスを注ぎ込んだようだ。確かに整った顔をしているような気もするが、福良の身の回りには美男美女がありふれているのでそれらに比べれば平凡にも思えた。
「いえ? 運に全てを注ぎ込みましたが」
「素でそのビジュアルって世の中不公平すぎんだろ!」
なぜか怒られてしまった。
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