第21話 雪花月3

 ――冒険者ギルドみたいなもんか――


 月たちがいるのは、集会所と呼ばれる場所だった。

 マリカから一通りの説明を受けた後、ここに放り込まれたのだ。

 飲食店、仕事の斡旋所、武器屋、道具屋といった施設が一つの建物内にまとめられていて、ここで準備をして、仕事をしろということらしい。


 ――まあ、多少は馴染みのある環境か? 居酒屋すらいったことはないけどアニメとかだとこーゆーのよくあるし――


 あたりではいかにも粗暴な輩が静かに飲み食いをしていた。灯の徒というらしいが、要は魔界で魔物討伐をする冒険者ということだ。

 無法の輩ということではあるが、一応この集会所に関してだけはお互いに干渉しないというルールがあり、それなりに守られているとのことだった。

 つまり、ラノベファンタジーでよくあるような、初心者に突っかかってくるベテラン冒険者といった輩はいないらしい。

 月たち四人は飲食店の丸テーブルについていた。

 ここにくるまでに軽く自己紹介をしていて、平凡な見た目の少年が沢田颯也。脳天気そうな少女が鹿子有栖。眼鏡をかけた理知的な少女が宮添理衣奈とのことだった。


「状況を整理しようと思う」


 颯也が口火を切った。

 いつの間にかリーダー気取りなのは気に入らないが、文句を言ってお前がやれと言われても困るので渋々受け入れている。

 確かに状況の整理や、今後の行動について相談するのは重要だろう。だが、それほど彼らを信頼できない月は、話には耳を傾けつつもスマートフォンを操作していた。

 初期ステータス設定にはボーナスポイントがあり、これがランダムで変動するので、いい値が出るまで何度も試しているのだ。


「正直なところ何がなんだかさっぱりわからないけど、とりあえず仕事をしないと明日の飯にも困る状況らしい」


 受付で登録をしたことにより、支度金としてチケットが支給された。チケットは教会が発行しているもので、ここでは通貨代わりに使用されている。

 そのため、今日の食事ぐらいはどうにかなるのだが、明日以降の見通しはたっていない状態だった。


 ――くそ! 初期値13っていい方だったのか? 一桁しか出ないし……――


 なんとなく再ロールボタンを押した月は泥沼にはまっていた。再ロールは何度でもできるのだが、思ったような値が出ないのだ。

 どうやら5近辺が出やすく、1や9は出にくいという調整らしい。とはいえ、9ならそれなりに出てくるのだが、13が出るとわかっているので、妥協したくはなかった。


 ――本当に二桁でんの――あぁ! 今、12が出たのに!――


 勢い余ってボタンを押してしまい、二桁は幻と化した。


 ――全然でねぇって感じでもないから、やっぱり一桁で妥協はできないな――


 あまり慎重にやりすぎても時間がかかるのが難しいところだ。次々に押しながら素早く確認していき、どうにか14を出すことができた。


 ――うーん……もうちょい上を狙えそうな気も……いや、ここが妥協点か……――


 初期値よりは上なのだ。これ以上やってもしょぼい数値しか出ない可能性もあるのだから、このあたりで満足しておくべきだろう。

 ボーナスポイントはこれでいいとして、ステータスにどう割り振るか。

 体格、美貌、知力、感覚、魔力、幸運。それぞれの初期値は1だ。これらを増やせば具体的にどうなるのかがよくわからない。


 ――まあ、体格にふっときゃ死ににくいとかはセオリーか?――


 試しに体格に振っていく。

 すると、プレビューボタンが表示された。とりあえず押してみると、ごつくなった自分の姿が表示され、月は噴き出しそうになった。


 ――ははは……ちびデブがごつくなってもオークみたいになるだけじゃん……――


 だが、ステータスの値が肉体に影響を及ぼすのなら、美貌を増やせばどうなるのか。

 月は美貌にボーナスを全てつぎこみ、プレビューを押した。


 ――むっちゃ美少女やん!――


 そこに表示されたのはほぼ別人だった。

 スリムになり、出るところは出て、顔が整っている。月らしさも多少残っていると言えるが、不細工な要素は一切なくなっているのだ。

 思わず月は、決定ボタンを押していた。

 他の値の検証などどうでもよくなっていたのだ。


「おい……あんた、雪花だったか。それはどうなって……」


 颯也が驚愕とともに聞いた。


「あ……その……ステータスを決定して……」


 月はごにょごにょとつぶやくように返した。

 顔がどうなったのかはわからないが、身体が細くなっているのはすぐにわかった。そのままでは制服がずり落ちそうなものだが、どういうわけか制服は身体のサイズに合っている。プレビューで見た時にもそのようになっていたので、制服は体型に合わせて変化するようだ。


「あのー? そのあたりどうするかって話を今してたんじゃなかったー?」


 有栖が呆れたように言う。


「役割分担が重要だということを相談していたと思うのですが?」


 理衣奈は冷たく言い放った。

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