第5話 極楽天福良3

 道は明確にそれとわかるものだった。

 舗装されているわけではないが、平坦で障害物がない。特徴的なのは、等間隔で地面に埋め込まれている輝く石だ。

 この輝く石がある場所が道だろうし、スマートフォンの地図では灰色で表示されていた。幅は3メートル程で、多少曲がりながらも東西に延びている。


「魔物が寄ってこない、ですか」


 そう言っていたフェアリーが魔物かもしれないし、そんな存在の言うことなど信用に値しないかもしれない。

 だが、福良はフェアリーを信じることにした。

 言い回しからすると絶対に安全ではなくとも、多少はましな場所なのだろう。

 道に辿り着いた福良は、地べたに座り込み足を伸ばした。安全であると信じて休憩することにしたのだ。


「まずはスマホでしょうか」


 移動中は地図で敵の接近を警戒しなければならないので他の機能を見ている余裕がない。今のうちに確認した方がよいかと福良は考えた。

 まずはスマートフォン全体を確認する。

 大きさは縦150mm、幅70mmほど。表面のほとんどが液晶パネルになっていて、上部にはインカメラが配置されている。裏面にはアウトカメラがあり、九法宮学園のロゴが刻印されていた。側面には電源ボタンと音量ボタンがある。

 ここまでは一般的なスマートフォンに思えるのだが、変わった特徴もあった。コネクタの類いが存在していないのだ。イヤホンジャックもUSBポートもないので、外部機器とは無線接続するのだろう。

 画面を見てみると、これも一見は普通のスマートフォンだった。

 画面上部にはステータスバーがあり、アンテナマークがある。電波状況は良好で、ネットワークと接続しているようだ。そして、普通ならありそうなバッテリーの表示がなかった。

 ホーム画面の最上部には時計が表示されていて、時刻は15時32分。入学式が終わったのが10時30分頃だったはずなので、妙なことになっていた。魔物と戦ったり、フェアリーと話をしたりしていたが、それだけで何時間も経過するはずがない。だが、電波を受信しているのなら、時計は自動的に調整されている可能性がある。

 気になった福良は時計をタップした。

 登録されている都市は二つ。東京とリソースエリア35で、ホーム画面に表示されていた時刻はリソースエリア35のものだった。


「エリア?」


 東京の時計は4月8日の10時32分になっていた。太陽の位置からすると、この場の時間としてはリソースエリア35が正しそうだ。もっとも、ここが異世界なら太陽の位置など何のあてにもならないかもしれないが。

 福良はあらためてスマートフォンの画面を見た。

 ホーム画面の最上段には時計のウイジェット。その下に学生証、ステータス、装備、スキル、地図のアイコンが並んでいる。

 画面下部のドックには、電話、メッセンジャー、カメラのアイコンがあった。

 電話とメッセンジャーで連絡できないことは確認済みなので、カメラを起動した。

 カメラは一般的な撮影機能があるだけだった。静止画と動画が撮影できて再生ができる。何かアルバムに記録されているかとも思ったが、こちらも空の状態だった。

 福良はホーム画面にある学生証アプリを起動した。


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[学生証]

学籍番号:FC7A0585

氏名  :極楽天 福良

生年月日:XXXX年8月8日

入学日 :XXXX年4月1日


学科名 :採掘科

クラス :1-2

出席番号:8


上記の者は本校生徒であることを証明する


H県N市O町11-23-87

九法宮学園高等学校

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 学生証を模した画面で、顔写真と個人情報が表示されている。

 九法宮学園では学生証がデジタル化されているのでアプリがあることは不思議ではないのだが、福良は表記の一部に違和感を覚えた。


「採掘科?」


 普通科で入学したはずだし、そもそも採掘科などなかったはずだ。

 見たところ学科以外におかしな点はないが、他に目新しい情報も無い。福良はステータスアプリを起動した。


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[ステータス]

レベル :4

ジョブ :スカベンジャー

    :レイジィキング

HP  :10/40

MP  :10/40


 体格:1

 美貌:1

 感覚:1

 魔力:1

 幸運:30

 

アチーブメント

・イレギュラービクトリー「ステータス設定前に敵を撃破」

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「あまりいいイメージのジョブではないですね」


 スカベンジャーは腐肉を漁っていそうだし、レイジィキングは直訳すれば怠け者の王といったところだろう。どちらにせよ外聞は悪そうだ。

 レベルが4だったり、ジョブが二つあるのは少し疑問に思えるが、仕様がわからないので考えるだけ無駄だろう。福良は装備アプリを確認した。


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[装備]

九法宮学園の制服(女子)

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「下着や靴などは装備扱いではないのでしょうか?」


 なぜか制服だけは装備らしい。

 他にわかることもないので、次にスキルアプリを起動した。


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[スキル]

スキルポイント:3


知力スキル

・共通言語理解


感覚スキル

・動体感知


幸運スキル

・経験値アップ


スカベンジャースキル

・コンテナボーナス


レイジィキング

・奇縁


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 フェアリーと会話が出来たのは共通言語理解スキルによるものかもしれない。

 とはいえ、スマートフォンのアプリに表示されている程度のことが現実に影響を及ぼせるかは疑問に思える。何かわからないかとスキル名をタップすると説明が表示された。


・共通言語理解

 共通言語による読み書き、会話を行うことができるようになる。

 共通言語はほぼ全ての民族、種族が習得している人工言語。成立してから長い年月が経っており、この言語さえ使用できればコミュニケーションで困ることはない。

 

・動体感知

 動いている物体を地図に表示する。感知範囲は半径【10】メートル。


・経験値アップ

 経験値入手時、確率でボーナスが発生する。


・コンテナボーナス

 不確定コンテナからのアイテム入手時に取得量が増加する。


・奇縁

 イベントに遭遇する確率が上昇する。

 幸運値が高いほど珍しいイベントに遭遇するが、必ずしもいい結果になるわけではない。


 フェアリーを発見できたのは動体感知のためかもしれない。そうなるとスキルには現実的な効果がありそうだが、もう少し決め手となる情報が欲しかった。


「どれも確認がしにくいですね……」


 他に気になるのはスキルポイントだ。試しにスキルポイントをタップしてみると、スキル取得画面が表示された。

 スキルツリー方式のようで、根元から各カテゴリへとスキルルートが伸びている。取得できないスキルは?表記になっていて、現時点で取得できるのは以下の三つだった。


スカベンジャースキル

・スカベンジャーポケット

 ガラクタカテゴリのアイテムを収納できるストレージ。価値合計一万リルまで収納できる。


幸運スキル

・ブラッディパーティ

 クリティカル発生時、確率で爆発が発生する。


レイジィキングスキル

・アイテム自動回収

 周囲に落ちている優先所有権のあるアイテムを自動的にストレージに格納する。回収範囲は半径【1】メートル。


「とりあえず取得してみましょうか」


 スキル選択には慎重になるべきかもしれないが、まずは使ってみないとわからないこともある。福良は3ポイント消費して、三つのスキルを取得した。


『スカベンジャーポケットを九法宮学園の制服(女子)の右腰ポケットにリンクしました。変更する場合は、スキル設定から行ってください』


 すると、ポップアップメッセージが表示された。


「右ポケット?」


 福良は右の腰ポケットに手を入れ、すぐに異常に気づいた。底がなく、どこまでも入っていくのだ。ポケットに穴が開いていてそこから手が飛び出しているわけではなく、手が謎の空間に入り込んでいるようだった。


「異世界かはともかくとして、スキルで超常的なことが起こることは確定してしまいましたね」


 福良は足元に落ちている石を拾いポケットに入れてみた。入ったがポケットは膨らんでいない。続けて石をいれてみたが、十個以上入れても外観に変化はなかった。

 ポケットに手を入れてみればそこに何個もの石があるのがわかるので、手の感覚で選んで取り出せばいいようだ。

 試しに腕時計を入れようとしたが、ポケットの口から先に入っていかなかった。やはりガラクタしか入れられないらしい。


「とりあえず石をいっぱい持てるのは便利ですね」


 今の所は石専用ポケットとして使うしかないだろう。

 スキルは一通り調べたので、最後に地図アプリを起動した。なんとなく使ってはいるが、もう少し詳細に見ておこうとおもったのだ。

 通過した範囲が描写されていく。動く物体が赤い点で表示される。ピンチ操作で拡大縮小ができる。方位記号で方角がわかる。縮尺倍率により距離がわかる。スマートフォンの向きが矢印として表示される。

 これらが地図の主な機能のようだだ。

 地図の縮尺を下げて表示範囲を大きくしていくと、東側に星マークがあることがわかった。ここから150キロメートルほどの位置だ。

 地図をスクロールして何かないかと探したが、他には何も見つからなかった。


「素直に考えれば目的地ということでしょうか?」


 とはいえ、簡単に辿り着ける距離ではないし、その間に何があるかはまるでわからない。今の所は人里があると信じて西に向かった方がいいだろう。

 スマートフォンの機能を一通り確認した福良は立ち上がり、西へと歩きはじめた。

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