第6話 北原和彦2
和彦は、スマートフォンの地図を見ながら森の中を歩いていた。
進む毎に真っ白だった地図は色づいていく。自分の位置を表す矢印の周囲に、森が描かれているのだ。描かれていく範囲はおおよそ半径30メートル。おそらくだが、この範囲は感覚ステータス値と関連があるのだろう。感覚ステータスが3で、動体感知スキルの反応範囲が半径30メートル。和彦の場合、周囲を走査するといったスキルの範囲は半径30メートルが基準のようだ。
感覚ステータスをもう少し増やしておけばよかったかもしれない。そう思うものの、初期設定時点ではわからなかったのだから仕方がないだろう。
「ま、30メートルでも結構な広さだよな」
30メートルはバスケットボールコートの長辺に近い距離だ。これぐらいの距離があれば、急に敵が出てきても対応することはできるだろう。
「敵、出てこねぇかな」
棍棒を振り回しながらつぶやく。和彦は逃げ回るつもりはなかった。敵を倒しまくってどんどんレベルを上げるつもりでいるのだ。
何が出てくるかわからないのに気楽なものだが、ゲームなら序盤は弱い敵が出てくるものだと勝手に思い込んでいた。
「しかし歩きスマホ必須だなこれ……と、なんか出たな」
右斜め前。和彦のいる場所からでは木々で見えないが、感知範囲ギリギリの箇所に赤い点が三つあらわれた。
和彦には気づいていないのか、そのまま前を横切ろうとしている。
「じゃあ……先手必勝か!」
きっと油断していることだろう。ゲームのように驚き戸惑うかもしれない。
和彦はスマートフォンをポケットに入れ、駆け出した。
思った以上に速度が出てつんのめりそうになったものの、勢いのままに突き進む。大きく迂回し、敵の背後へと回り込んだ。
そこにいたのは、子供ぐらいの大きさのモンスターだった。緑色で、昆虫のような外骨格で、背中には小さな羽もある。人間が相手なら躊躇するところだが、これは明らかに敵だと覚悟を決めた。
和彦はそのまま突っ込んでいき、モンスターの背後から棍棒を振り下ろした。
ぐちゃりとした嫌な手応えとともに、モンスターの頭部がへしゃげる。思ったよりも脆い。これはいけると和彦は二体目の頭に棍棒を叩き付けた。モンスターの頭がへこむ。普通の生き物ならまず生きてはいられないだろう。
この調子で三体目も葬ろうと棍棒を振り上げたところで、モンスターが振り向いた。
「ぐっ!」
脇腹に衝撃。
これまでに覚えがないほどの激痛が和彦を襲った。モンスターの爪が脇腹に突き立っているのだ。
そこから先は無我夢中だった。痛いからとうずくまるわけにも逃げ出すわけにもいかない。滅多矢鱈と棍棒を振り回し、気づけばモンスターは動かなくなっていた。
我に返って脇腹を確認する。制服に穴は空いていなかった。防具扱いなら、刺突を防ぐ程度の防御力はあったのだろう。
「楽勝だったんだが!?」
少し落ち着いてきて、和彦は強がった。
幸先がいいとは言えなかったが、それでも大した損害もなく勝利できたのだ。これで怯えて縮こまっていては先が思いやられる。
昂ぶっていた気持ちがおさまってきて、和彦はスマートフォンが震えていることに気づいた。
スマートフォンを確認すると、レベルアップの通知が表示されていた。
「お。早速レベルアップか」
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[ステータス]
レベル :2
ジョブ :戦士
HP :17/40
MP :10/20
体格:5
美貌:2
感覚:3
魔力:3
幸運:2
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HPとMPの最大値は増えているが、ステータス値には変動がなかった。
「レベルアップで全回復はしない系か。って3? さっきの激痛が3って……」
先ほどまでのHPは20で今は17。攻撃を喰らったのは一回だけなので、爪の威力が3相当なのだろう。あれを7回喰らえば確かに死ぬかもしれないと和彦は怖気を振るった。
「ま、まあ、最大HPが増えたってことは、痛みは多少はましになる……のか?」
そうであって欲しいと願いながら、ステータスアプリを閉じた。
するとホーム画面にはちょっとした変化があった。
スキルアプリに!が重ねて表示されているのだ。これもお知らせなどの通知だろう。和彦はスキルアプリを起動した。
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[スキル]
スキルポイント:1
体格スキル
・HPアップ
知力スキル
・共通言語理解
感覚スキル
・動体感知
戦士スキル
・近接武器ダメージアップ
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「やっぱりレベルアップでスキルポイントが増えるのか」
スキルポイントをタップすると、スキル取得画面が表示された。
取得画面はツリー方式になっていて、各カテゴリに分かれているようだ。
「今取れるのは……所持重量増加と打撃強化と部位破壊強化か……まぁ打撃強化だろうなぁ」
困るほどに荷物を持っているわけではないし、部位破壊も今の所は役に立ちそうもない。それよりも今持っている棍棒の攻撃力が上がるであろう打撃強化が有効なはずだ。
和彦は、スキルポイントを消費して打撃強化スキルを取得した。
「じゃあいくか」
和彦は、再び東へと向かいはじめた。
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