これが最後の嘘

「さぁお覚悟は宜しくて?」


私がテオフィルに告げた声は自分でも恐ろしくなるほど冷たい声だった。自分でもこんな声が出せるだなんて思ってもいなかった。


「ライ……っ」


アレンが私を呼ぶ声が聞こえる……でも今は……今だけどうでもいい。目の奥の熱も痛みも全部どうでもいい……!


「テオフィル……最期に何か言い残すことは?」


「ふむ……そうだな。地獄で待っている……とでも言っておこう。」


「彼と同じことを言うのね……本当に腹が立つ……!」


私はテオフィルを睨みつけゆっくり息を吐けば少しだけ震えている手を見つめた。あぁ今私怖いんだ。テオフィルがいなくなればもう私の生きている意味は無い。意味が無くなれば私はこれからどうすればいいんだろう……そんな事を考えながら私は震えを無理矢理止め、ゆっくりナイフを振り上げ彼に突き刺そうとした。私の手がアレンに握られ止められるまで。



「……アレン。これはどういう事……?」


「ライ。もういい……これ以上手を汚すな。」


「……アレン。手を離して。」


「それは出来ない。これ以上お前のその顔を見たくない。」


「……その顔?私は今どんな顔してるか聞きたいな。」


あぁ……きっと私は今酷い顔をしているんだろう……だからアレンが止めた。分かってる。でもこれだけは譲る事は出来ない。だからこれが最後。これが最後の嘘。


「……分かった。やめるから手を離して」


私はにこりと笑みを浮かべながらアレンに告げれば彼はそっと手を離した。


「……上に戻るぞライ」


「……先に行ってて。この人と話す事まだあるから。」


「わかった……早く来いよ。」


私は小さく頷きテオフィルの方へもう一度視線を向けた。


「俺と話すことなんて無いくせに」


「えぇ……無いわよ。だから嘘をついたの。」


「はっ……笑えるな。ヒメウソ村の人間がここまで人間らしいとは。」


「……私達は人間よ。人より少し違うだけ。」


私はそう告げて彼の胸元にゆっくりとナイフを当てた


「……さようならテオフィル。地獄で待ってなさい。私もそのうちそちらに行くもの」


「そうだな……あぁ地獄の底で待っている。オスキュルテの姫。」


「……その呼び方。結局辞めてくれなかったわね」


私はそう告げてゆっくりとナイフを押し込んだ。今度は跳ね返されず、彼の心臓へナイフの刃先が突き刺さった。あぁ……やっと終わった……終わったんだ。


「皆……リリー……終わったよ……遅くなってごめんね……」


私はそう呟いてそのまま意識を手放した。

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