第十二話 てんやわんやのアスフェロン家
「ふぇ!?あわわわわわわわわわわわ」
「なっ、なななななななななな!?」
えー、俺は今何を言われたんだ?とんでもない爆弾を放り投げられて記憶の一部が吹っ飛んだぞ?
「ん?聞こえなかったのか?......ほほ、成る程、倅が言う鈍感とはこの事か。どぉにも何か別の力が働いているように感じるが......またそれもセイジ君の個性なのであろうな。」
な、何を言っているんだ?この人は。
鈍感とは一体何の事なんだろうか?
検討もつかない。
だが何故だろう、どこかから呆れたような視線を感じる。しかも複数人から。
「まぁ、聞こえていないならもう一度言おう。君の結婚相手として、クラーラ、またはマシュはどうかね?」
「あの、一体どこをどう行ったら話が結婚までに跳躍するんだ?紆余曲折どころじゃないんだが。」
「そ、そうですルフォン様!どうしてそのような話になるのですか!?今、セイジさんがお嬢様を助けてくださったお礼の話をするところでしたよね!」
「その話がこれだが?」
「えっ」
「何を驚くことがある?」
驚くマシュさんやあわわわしたまま停止しているクラーラを目を細目ながらルフォンは見ていた。
「お礼は勿論する。だが、大事なクラーラを、倅の娘を助けてもらいながら生半可な物を出すのは私のプライドが許さん。であれば、必然的にこうなることぐらい、マシュならば分かるだろう?」
「だ、だからって何で私まで─」
「わしが気付いていないわけがないであろう?」
「~っ!?」
何故か顔を真っ赤にするマシュさん。
それを見ながらニヤニヤするルフォン。
いまだ頭から煙を出しながら停止しているクラーラ。
か、
「ルフォン、俺からも聞きたいんだが、どうして二人なんだ?マシュさんはここに仕えているし、クラーラなんてまだ成人になってないだろ?なのに何故俺の婚約者にしようとするんだ?お礼なら俺は要らないし、ここに来られただけで満足なんだが。」
「お礼は必ずさせてもらう。私の.......商人としての、倅の親としてのプライドだ。それだけはさせてもらう。では、何故私が二人と君を付けようとするか。それはな、二人が君を─」
「わぁぁぁぁぁ!止めてくださいいい!」
すると、突然停止していたクラーラがソファが揺れるほど勢いよく立ち上がり、その勢いのままルフォンの座る椅子に突撃してルフォンの口を塞いだ。
「む、むがががが、むが」
「いわないでください!っていうか何で気付いてるんですかぁぁぁ、馬鹿ぁぁぁぁ!」
「むが、むむが、むが、む............ が、」
このままだとルフォンが孫の手で死んでしまう、というかもう泡を吹いている。
まずい、一旦罰を受けてほしいがこれはまずい。
「く、クラーラ、一旦そこで止めよう。ルフォンが窒息して死ぬ。」
「へ?あっ!?ご、ごごごごめんなさい!」
クラーラの豪腕から解放されたルフォンはかなり強く噎せていた。
「はぁ、はぁ、まさか孫の手で死にそうになるとは思わなかったな、ほ、ほほ。」
「いや、今のはルフォンが十割悪い。」
「今回はルフォン様が悪いかと。」
顔がまだ赤いマシュさんと俺の台詞が被る。
ふむ、このままではわけが分からないまま俺の奥さん決めが進んでしまう。本当はお礼なんて要らないが、どうするか............
あ、そうだ。俺はソロで探索出来るようになったんだ。なら、
「ルフォン、俺は今欲しいものがあるんだが、それを作ってくれないか?これはアスフェロン商会への注文ととってくれて構わない。」
「ほぅ、クラーラがいらないと?」
「別に誰もいらないとは言っていな─」
「嫌、なんですか?」
うわぁ、これはきつい。これどう転がっても面倒ごとにしかならないやつじゃないか。
すると、ルフォンが無表情からすぐに笑顔になり、高笑いをし始めた。
「ほほほほ、反応が面白くての。すまんなセイジ君。君のその発注、勿論引き受けようじゃないか。して、どの様なものをお望みかね?」
すぐに商人の顔になったルフォン。流石、元商会のトップ。会長という役は引退してもなんら劣りがない。
「じつはな、最近ソロで活動できるようになったんだが、武器が見ての通り、な?」
俺はそういってソファの横に立て掛けておいた自身の武器を見せる。ルフォンはそれをじっくりと、そしてすり減りや歪みが起こりやすい部分を重点的に見ている。さながら鑑定士だな。
「ふむ、典型的な
すごい観察眼だ。だが、俺の望むものは流石にパッと出てこないな。何せ俺は持つ武器をガラリと変えるからな。
「いや、ルフォンには太刀の製作を頼みたい。」
「太刀......か?片手剣とはわけが違うぞ?スタイルもガラリと変わる。すぐダンジョン探索へと行くのであればオススメはしないが、その表情、何かあったな?」
「本当にすごい観察眼だな、そうだ、俺は太刀をうまく使えるような力を手に入れたんだ。だから、武器を思いきって変えようと思ってな。」
「そうか、ちゃんとした理由があるのならば良い。分かった、その発注引き受けよう。もちろん生半可なものは出さない。こちらも最高の品物をお出ししよう。」
そう言ったルフォンの顔は、やる気に満ち溢れていた。やはり、優しい。自身の孫を救ってもらった恩を全力でかえそうとする。そんなことが出来るのは素晴らしいことだ。
ところで、
「お、お二人共、どうしてその様に不満なお顔をされているのでしょうか?」
隣の
クラーラはむっすぅとした顔でそっぽを向いているし、マシュさんはマシュさんで、無表情ながら不満オーラが漏れ出ている...........いや、あんたそれ貫くなら貫けよ。なにクラーラの方をチラ見して鼻血真顔でだしてんだよ。ほら見ろ、ルフォンが若干引いてるぞ。
「マシュよ、その滝のごとく流れる血を止めなさい。クラーラや、気持ちは分かるがそうむくれるな、可愛い顔がシワシワになってしまうぞ?」
そう言われ、二人はそれぞれのことをして元に戻った。だが、またルフォンがニヤニヤし始めたのがなんとも、こう、不安だ。
「ふむ、二人がこのように不機嫌になるとはのぉ、これはセイジ君には責任を、とってもらわんとのぉ?」
「いや、あんた、俺が言うのもなんだが俺はクラーラを連れて戻って来たんだぞ?そんな人間に責任を取れは...........」
我ながら酷い発言をしていることは自覚している。
「それでもだ、二人を不機嫌にさせた君には、責任がある。そう思わんかね、二人とも?」
「はい、責任があると思います!」
「ルフォン様の言う通り、ここは何かしらのお詫びをしてもらわなければならないかと。」
おい、そこの二人、何勝手に俺に責任を擦り付けてるんだ!いいだろう、勝手に婚約者が決まらなかったんだから。好きな人はいつか出来るから、な。その人と結ばれればいいんだ。
「では、セイジ君にはこの家に今日は止まってもらおうかの。」
............ん?それは別に罰ではなくないか?いや、何か起こるかもしれない。ここはやんわりと断って─
ガシッ
「セイジさん。」
「泊まっていって、下さいますよね?」
「あっ、はい。」
俺に断れるはずもなく、半ば強引におれのアスフェロン家での宿泊が決まった。
だが、俺はこの時、就寝時にあんなことが起こるなんて、考えてもいなかった。
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