第七話 ジョブチェンジ後の初のダンジョン2
はぁー、年甲斐もなくニヤニヤしてしまった。
誰も周りにいないとはいえ、おっさんが一人でニヤニヤするのは後から振り返ると中々に恥ずかしいものである。
「っふぅ........」
手入れを続けた俺の剣に付着した血を払いながら一息つく。
今まで、ブラッドラットの奇襲に反応できなかったが、今や抜刀術を使えば簡単にカウンターができる。
スキルのリキャストが無いのもあいまって、このダンジョン、もといブラッドラットに対して無敵になっていたのだ。
今まで感じたことのないモンスターを自分の手で倒すという楽しさについ舞い上がってしまい、俺が持ってきた大きめの麻袋の中に大量のブラッドラットが詰まるほど狩りを続けていた。
抜刀術の強さを、今一度体感した。
これがあれば、俺は冒険者として一人でも十分にやっていけるのではないだろうか?などと考えている内に、俺は階段のある部屋まで来ていた。
「もう次の階層の入り口か............。」
四階層への入り口。
ここからは、ブラッドラットの数が減る。
何故ならば、ブラッドラットを主食とするさらに強いモンスターが居るからだ。
「進もう。まだ試していないスキルがあるんだ。それを試させてくれよ。」
そう、俺はこの三階層を抜刀術だけで切り抜けてきた。
だから、心眼や見切りを使っていない。
四階層からはブラッドラットより苦戦を強いられるだろうから、これらを使うことになるだろう。
「っし、行くぞ。」
俺はまた、螺旋状の階段を下りていくのであった。
[ブルルルッ、ブルッ]
「ひぃぃぃ!」
ダメッ、逃げなきゃ、殺されるっ!
いや、いやぁぁぁぁ!
なんで?何でホーンホースがここにいるの?
ホーンホースは五階層からじゃなかったの!?
あ、もしかして私、騙された?
「は、はははっ」
今日買ったばかりの防具や衣服はボロボロ、体力も、私はジョブが魔術師見習いだから殆ど鍛えてないから、ない。
息も絶え絶えに、必死になって逃げていた。
パーティーに誘われて、嬉しくなって勢いで入っちゃったけど、ハズレだったなぁ。
四階層てホーンホースに出会ったとき、アイツら私を置いてきぼりにして一目散に逃げていった。
どうせ魔術師見習いだから囮にしようと思ったんだろう。
はぁ、ついてないなぁ。
「イタッ!」
地面のちょっとした出っ張りに躓いてしまい、私は盛大に転ぶ。
ゴロゴロと勢いのまま回っていると、壁に当たり止まった。
............行き止まり、か。
[ブルルルッ]
顔を上げるとホーンホースが私を殺そうと角を向けて突進してくるのが見えた。
嫌、死にたくない、誰かぁ
「助けてぇ!」
「“見切り”、“抜刀術”!」
[ヒヒィィィン!?]
カランカラン
「............え?」
誰かが来てくれた。
私はその人が居るであろう方向に顔を向ける。
そこには、ホーンホースの折れた角が転がっているのと、大きな背中が見えた。
四階層に下りたとき、胸に何とも言い様のない不快感を感じた。
何か、悪い予感がする。
俺は焦燥感に駆られ走り出した。
四階層はダンジョンに相応しい迷路の様な構造になっていて、日毎に内装を変えていく、所謂生きた階層だ。
初心の冒険者達にとって最初の難関でもある。たから、ここでリタイアする者も出てくる。
もしかしたら............
「無事でいてくれよっ!」
そう祈りながら、俺はある場所へと向かった。
「やっぱりなぁ!」
そこは、日毎に変わるこの生きた階層の中で唯一変わることのない、初心の冒険者達に言われる死の行き止まりといわれる場所だ。
そこにホーンホースとボロボロになっている小さな女の子がいた。
手に杖を持っていることから魔法関係のジョブだろう。
だが、魔法を打つ素振りが見えない。
それどころか震えている様に見える。
ダメだ、それだとホーンホースに殺されてしまう!
「くっ、頼むぞ剣士ジョブのスキルっ!」
俺は半ば強引に彼女とホーンホースの間に割って入り、突進に迎え撃つ。
「“見切り“、”抜刀術”!」
流れる時間が少し遅くなった。
世界から色が無くなり、灰と黒だけになる。
そんな中、ホーンホースの角の先端から後ろにいる女の子の胸辺りに白い線が現れた。
なるほど、これが攻撃の軌道か!
俺は瞬時に理解し、抜刀術を使い、その線を絶ち切る様に剣を振るった。
[ヒヒィィィン!?]
気がつけば、俺はホーンホースの角を完全に折っていた。
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