第六話 ジョブチェンジ後の初のダンジョン

ギルドから出た後、数十分ほど歩いたところに大きな門が見えた。何度か来ているので一応見慣れてはいる。

だが、本当に久しぶりだな。確か❲暁の集い❳結成後に始めていった後からもう来なくなったんだっけ?



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「ニ”ャ”ーー!?気持ち悪いー!助けてぇー!」


「おいおいマリナ、そんなこと言ってたらこの先進めないぞ?」


「普通のモンスターならいいけどネズミがいるダンジョンは嫌ーーー!」


「あ、あははは..........まさかマリナがネズミ系のモンスターにここまで苦手意識を持っていたとは、思いませんでしたね。」


「うーん、どうするかなぁ?」


「ねぇねぇ、もうちょい先に進もうよ。」


「に”ゃ”!?」


「マリナがここまでびびるんだったら、この先に行ったときの反応が気になるし..........」


「な、何言ってんのよ!このバカタレアトリエ!何でアンタそんなに嬉しそうなわけ!?」


「だっていっつもマリナにピーピーギャーギャー言われるから、仕返しする機会なんてそうないしね。」


「だからって人が生理的に嫌いなモンスターで仕返しするのはないでしょ!?常識的に考えて!」


「まぁ、マリナもこう言っているし、今後このダンジョンに来るのは止めるか。」


「そだねー。お子ちゃまマリナちゃんはネズミってだけで泣いちゃったからねー。」


「ムキーーーーー!」



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あぁ、懐かしいな。

って、イカン。今さらあのパーティーでの事を思い出したくない。

こっちが自分で決めたわけではないが、抜けたことを後悔してしまいそうになるから。

だが実際そんな実力だから仕方ないか。


「はぁ..........」


ハッ!?ダメだダメだ、今日はスキルを使った実践のためにダンジョンに来たんだろ?こんなへこんでいてどうする。

三十代でウジウジしていたら、それこそ彼等に顔向け出来ないじゃないか。


「っし。」


俺は頬を叩いて気合いを入れ直し、門の先へと向かう。


「カードを。」


「はい、どうぞ」


門番に自分のカードを渡す。これをしないと違法にダンジョン攻略をしたことになり罰金や、最悪捕まる。だから絶対にここではカードを差し出さなければならない。


「セイジ=レイヴァンド様ですね。」


「はい、その通りです。」


「それでは先にお進みください。階段を降りてすぐの扉からダンジョン一階層に入れます。」


「ありがとうございます。」


「貴方にバルバドスの神の加護があらんことを。」


そして俺は開けられた門の先へと進む。


足音だけが響く薄暗い階段をどんどん降りていく。俺は目はいいが毎回不安になるので壁に手をつきながら階段を降りていく。

石のごつごつした感触が手から伝わる。

ここがダンジョンであることを再確認させてくれた。

階段を降りきると、小さな部屋があり、正面に扉があった。ここを通り抜ければダンジョン一階層だ。


「ふぅ、よしっ!」


一度深呼吸をし、俺はドアノブに手を掛ける。


「ここからが、俺のスタートだ。」


そして、一気に開け放った。






扉の先に広がる空間は、まだらに生えているコケの光によってほんのり明るくなっていた。ダンジョン特有の妙なヒンヤリとした空気が肌を撫でる。

ここが一階層。ダンジョンの構成上最上層はモンスターが出現せず、低ランクの素材が手に入れられるようになっていて、下へ進んでいくほどにモンスターが頻繁に出てくるようになり、強くなっていく。

俺が受けたクエストのホーンホース、ファングボア、ブラッドラットはファングボアを除くと二階層から存在するいわば下級以上中級以下のモンスターだ。

始めたての冒険者でなければ誰でも倒せる。

.........そんな奴でさえ俺は一苦労していた。

別に俺自身の攻撃が効かないって言う訳じゃない。当たらないんだ。

ある事故で傷をおった俺の身体は無茶をすると激痛が走るからだになってしまった。

その無茶のラインは甘く、避ける行動や、大振りな攻撃がその例だ。

だから、俺はあのチームでサポーターになったんだ。

無茶をせずかつチームの役に立てるあの役職に........

だが、この〈ジョブチェンジ〉なら変われるのではないだろうか?

昨日の素振りで身体に痛みは走らなかった。

さらに、攻撃力が上がると来れば.........


「戦わないわけないよなぁ!」


あれからかなり歩いて俺は既に三階層まで来ていた。二階層では会わなかったが、ついに俺はモンスターと接敵する。


「まずはお前だ、ブラッドラット。」

[キィィィィ!]


ブラッドラットは、通常のネズミの三回りほど大きく、所々の皮膚が破れて血や肉が見えてしまっている。

見た目はグロテスクそのものだが、暗いダンジョンの中だと案外見つけづらくすばしっこいため厄介とされている。


「スキルのお陰でどれだけ強くなったかを知るためと熟練度のために、倒させてもらおう。」

[キキィィ?]


俺の言葉が分かっているのかは分からないが、ブラッドラットは俺に挑発的な態度を見せた。

だが、それに引っ掛かるような俺ではない。サポーターとしての知識を持ってるからな。

ブラッドラットの行動もといスキルとして

〈挑発〉というものがある。

これを発動すると、発動後に自分を見た相手のヘイトを自信に向け、軽い混乱状態.......というより相手をムカつかせる。

これはタンク系の盾士や聖騎士などが是非手に入れておきたいスキルでもある。

だが、欠点がひとつ。


「それは格上相手には効かないんだよ。」

[キィィィィ!?]


挑発に乗らず冷静に剣を構え走り出した俺を見て驚愕するブラッドラット。

結局、ネズミはネズミだな。

だが、油断できない。

というより、ここからが本番なんだよな。


「ふぅ」


走りながら集中し始める。

確かスキルを使うときは口ずさんだほうがよかったよな。


「“抜刀術”」


斬ッ


[キキィィ...........]


ポトリ


「え?」


気が付いたら、俺はブラッドラットを倒していた。

あのすばしっこいで有名なブラッドラットを、たったひとつのスキルで、たった一振で。

手を握ったり、開いたりを繰り返す。

時には頬も引っ張ってみる。

...........痛い。夢じゃ、ない。


「くぅぅー、っし!」


俺はこの日、初めて強くなったことを実感した。自分の手で倒すことが出来たんだ、これで強くなれるんだ、と。


「よし、まだまだ潜るぞ!」


俺はこの時、自分も分かるほどニマニマしていた。









後で思い出して気色悪さと恥ずかしさが込み上げてきたため、ヒンヤリとしたダンジョンの中で顔を真っ赤にした。


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