第四話 朝

俺はそこまで多く無い資金を使って宿を取ろうとした。だが宿に行くなりセイジさんが来たと騒がれた。宿に泊まりたいと言うと、宿主がタダで部屋を貸してくれた。もちろん俺はお金を払おうとしたが、いつも宿の手伝いをしてくれているからと結局お金を貰ってくれなかった。

タダで泊まれるのは有り難いが、気が引ける。

俺は[暁の集い]が結成する前からずっとカタリスの街の依頼をこなし続けた。そのためか大体の人は俺のことを知っている。ギルドにいる冒険者たちはなんであんな報酬の少ない依頼をするのかと不思議に思っているらしい。ギルドで依頼として出されているならどんな報酬であっても、どんなに低ランクであってもやらなくちゃならないのは当然だろう?そう思っている。

......冒険者になる前の後悔もあるかもしれないが。

それでも俺は、やれるならどんなに低ランクでも全てこなそうと思っている。

そのせいでランク昇格試験をすっぽかして未だに最低ランクのままなんだが...な。

これもパーティーを抜けさせられるまでいった原因かもしれないな。

......ええい、こんなことを考えていても抜けさせられた事実は変わらない。切り替えていこう。

俺はベットに横たわり目を閉じた。





チュンチュン チュンチュン


「ん、もう朝か。」

小鳥の囀りで目を覚ます。窓から外が見えるがまだ薄暗い。

今は朝の四時くらいか?眠いがもうそろそろだな。

俺はベットから降りて背伸びをする。この宿の部屋は少し広いほうなので俺が背伸びをしても手が天井につっかえることはない。


「んー、っふぅ。気持ちのいい朝だな。」


さて、ランニングに行きますか。


俺の朝は早い.....方だ。パーティーメンバーの中では一番早かったからそうだろう。俺の朝のルーティーンはまず走ることだ。誰もいないカタリスの街を一人で走る。人がいないからどこに何があるかも覚えやすいし、走っても不審がられない。また街の道はところどころ再整備のため石が捲れているところがあり、足腰を鍛えるのにうってつけだ。


「スゥ、はっはっ、スゥ、はっはっ。」


リズム良く呼吸することで脳を目覚めさせる。肺にも空気が効率よく行くので疲れにくい。汗をかき始めてきた。朝のカタリスは気温が低くは汗をかいて走っている時に吹く風は心地よい。


「やっぱりこの街はいいな。」


そう思っていると声をかけられた。


「やぁ、あんちゃん。今日も朝からランニングかい?律儀だねぇ。相当鍛えられてるんじゃないかい?たまには休んだほうがいいぞ?これおまけしとくから家に帰ったら食いな。」


「ありがとうございます、マサヨさん。でもランニングは毎日やらないと意味がないので続けているんです。毎日貰っちゃってすいません。」


「いいんだよ、若いんだから。ちゃんと食ってちゃんと動いてちゃんと寝る。これが大切なんだよ。」


「俺もう三十代なんですけど。」


「アタシからしたら30でも十分若いよ。ほれ、行きな。」


「ありがとうございます。また買いにきますから。」


「ああ、待ってるよ。」


この人はマサヨさん。カタリスの街で惣菜屋マサヨを昔から経営しているお婆さんだ。ギルドのクエストで知り合ってから仲良くしている。毎朝ランニングしている時にお惣菜をもらうくらいの関係だ。いつも貰って申し訳ないが、毎回良いんだよ良いんだよと言って惣菜をくれる。ここの惣菜は絶品で、特に若鶏の唐揚げがとんでもなく美味しい。三十代の表現にしては子供っぽいかもしれないが、それぐらい美味しい。

俺はマサヨさんから惣菜をもらいまた走り出す。

ルートは毎回決まっていて、このカタリスの街、テヌンを一周する。結構な距離があるらしい。大体十キロほどかな?これを毎日走り続けている。最初の方こそキツかったが今ではもうなれたものだ。

約30分ほどでランニングを終える。途中で休憩を挟んだりするから少し遅いかもしれない。

宿に戻ると、入り口兼食堂に宿主さんがいた。


「おはよう、セイジ君。今日も朝からランニングかい?凄いね。」


「おはようございます、ナタリィさん。毎日やってるんでそこまで凄くないですよ。」


この人はナタリィさん。エルフの女性で、この宿、エルフの宿屋の宿主さんだ。この人とは最初この王国に来る時に偶然出会った。今では見かけたら話をしたり買い物に行ったりするぐらい仲良くなっている。


「またまたぁ。それより、いつも言ってるけど私のことはマルティアって呼んでって言ってるでしょ?」


「いやぁ、まだちょっと慣れてなくて......」


「全く、真面目なんだから。そうだ、お風呂開けておいたから入ってきて。汗結構かいてるでしょ?」


「ありがとうございます。今日は結構走ったのでちょうど風呂に入りたいと思っていたんですよ。」


「そう、ならよかった。これ、鍵だから。」


「ありがとうございます。では入ってきます。」


この人はとてもいい人で、俺が毎朝ランニングをしているので風呂を開けてくれる。俺は鍵をもらい風呂に行く。ここの風呂はかなり広く一人で使うのは勿体無いくらいだ。俺は更衣室で服を脱ぎ風呂の鍵を開けて入る。

まずは体を洗う。ここのボディーソープはいいにおいがする。ナタリィさんいはく特注品だそうだ。俺は体を綺麗にしてから風呂に入る。


「ふぅぅ、あったけぇ。」


風呂はやっぱりいいな。体の芯から温まるし、疲れがさっぱり取れる。...傷の痛みも和らぐしな。

俺は風呂から上がり体を拭いて服を着る。そして更衣室から出ると、ナタリィさんともう一人の女性がいた。


「風呂上がりました。」


「こっちも今朝食ができたわよ。」


「今日はファングボアの生姜焼き定食ですぅ。」


「いつもありがとうございます、ヒュナさん。」


「いえいえぇ。」


この人はヒュナさん。ナタリィさんと同じエルフの女性で、この宿の料理担当だ。少しおっとりしている。この人が作る料理はどれも美味しい。今日はファングボアの生姜焼きか。いいな。運動した後で腹が減っている今にピッタリだ。

俺は定食の出された席につく。


「いただきます。」


「召し上がれぇ。」


俺はまず味噌汁から飲む。うん、美味しい。具材はワカメと豆腐。シンプルながら一番美味しい組み合わせだ。味噌も少し甘味のあるもので風味がいい。

俺は味噌汁を飲み干し野菜を食べ始める。好きなものは後に食べる食べ方だ。ここの宿で使われている野菜はチューンさんのところの野菜でとても美味しい。チューンさんの野菜は新鮮がモットーで特にトマトが売りだ。今回はキャベツとトマト。両方新鮮なままなので、キャベツはシャキッと、トマトはみずみずしい。野菜を食べた後、ついに俺は生姜焼きを手べる。食欲をそそる生姜のいい匂い。いただきます。っ!?美味い!脂の乗ったファングボアの肉。さすが全世代の人気を誇る肉だ。その肉に生姜の香るソースが加わることで脂っぽさを軽減しつつガツンとした旨味を与える。これは凄い。俺はすかさず米を食べる。やはり生姜焼きに米は必須だな。


「ふぅ、ご馳走様でした。」


あっという間に食べてしまった。


「どうでしたかぁ?」


「とても美味しかったです。」


「そうですかぁ!それならよかったですぅ。」


ヒュナさんが笑顔になる。可愛いな。俺も釣られて笑顔になる。


「むぅぅ、二人ともいい感じになってさぁ、いいなぁ。」


「え。何か言いました?」


「なんでもないわよ。」


「??」


なんかナタリィさんがむくれているような、拗ねてるような気がする。気のせいかな?

俺は食事を終えた後、自分が借りてる部屋に戻った。そしておれは準備を始める。傷がついてボロボロになった皮の胴、膝、足の防具を身につけて剣を腰に装備する。


「よし。」


俺は部屋か出た。


「あら、ギルドに行くの?」


「はい。今日も依頼を受けに行きます。」


「頑張ってね。いってらっしゃい。」


「はい、行ってきます。」


俺はそう返事をしてギルドへと歩き出した。

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