第16話「クラークさんの剣裁き。」
一匹が私に噛み付こうと飛び掛かってくる。くるりとダンスをするようにターンし、身を捩りながら心臓目掛けて一突きする。
ウルフはばたりと倒れ、他の二匹がキャンキャン! と吠え襲い掛かってくる。
「二匹はさすがにっ……きついですねっ!」
地面を蹴り、後ろに宙返りする。ずさーっと足で地面を滑り、ぐっと足を踏み込んだ瞬間真横を何かが通り過ぎた。
少し長い白髪を揺らし、鋭くなったサファイアの瞳が飛び出したのだ。短剣を横に振りかざし、体制を低くしウルフの顎目掛けて蹴りを放った。
キャイン! と悲鳴を上げ、一匹が沈む。
クラークさん……こんなに剣裁きがすごかったの……、戦えないなんて真っ赤なウソ……だ。これは戦える人の動き。
「仲間に手を出す奴は何者だろうと許さない。」
そう言って彼は冷酷な瞳をした。あんなクラークさん見たことない。
そんな言葉を残してクラークさんはもう一匹のウルフの心臓部目掛け、短剣を振り下ろした。
びちゃっと返り血を浴びたクラークさんはそれを拭いながらウルフの剥ぎ取りを手際よく行う。
クラークさん……一体何者。
「クラークさんお見事です。戦えるじゃないですか。」
「さすがに冒険には出てるから多少はな。だが恥ずかしいのもあるし言わないでくれ。」
そう言いながら綺麗に返り血を拭き終わると剥ぎ取ったアイテムを鞄にしまっていた。
嫌な思考が脳内を支配する。聖力にあてられて、剣裁きもすごくて、体術も優れていて、尖った耳。エルフという可能性もあるが……聖力にあてられることはないのだ。やっぱり魔族かもしれない。
だがそれでも好きという気持ちは変わらなかった。私、クラークさんが何者であっても好きなんだな、そう痛感した。
「言いませんよ、二人の内緒ですね。」
「あぁ、そうしてくれ。だがシェナ、聖女なのに思ったより戦えるんだな。」
「こう見えて冒険者登録は、神官戦士なんですよ。軽戦士ですけれど。」
冒険者として金稼ぎをさせられるために鍛錬させられたのだ。これくらいお手の物だ。
パーティーを組みやすいように神官戦士になったのも親の策略だった。
「……嫌なことを思い出させたな。」
そう言ってクラークさんは私の頭を撫でた。それが少しこそばゆくて目をつむる。
するりと頭から頬へ手が移動する。するすると頬を撫でられ、唇をなぞられる。
ドキリと心臓が鳴る。うっすらと目を開ければ、顔が近づいた。
なになになにー!
「血がついてるぞ、お転婆娘だな。」
血を拭ってくれる、早とちりだった……。「す、すいません、避けたつもりでした。」と慌てて顔を隠す。
絶対真っ赤だ……。恥ずかしい……でも、期待してしまった。
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