第14話「初めての野営。」

私たちは暖かな談笑をした後、キャンプへ戻る。寝るためだ。

順番で見張りをしようという話になったが、私は女だからという理由で見張りは無しになった。

気にしなくていいのに……。と思ったが言葉に甘えることにした。

毛布を引き摺りだし、包まる。最初の見張りはフェンさんで、ぱちぱちと燃える焚き火の前で石に腰をかけている。

毛布に包まっていると隣にクラークさんが来た。毛布を掛け、横になるクラークさん。

ち、近い! 少しドキドキしてしまう。恋なんてしたっていい事ないのに……。私の心臓は鳴り止むことを知らない。

クラークさんと視線が合う。じーっと見つめられたあと、彼はにこりと微笑んだ。

サファイアが細くなる。微かに閉じられた瞳から覗くサファイアに心臓はまたとくりとくりと早鐘を打つ。

心臓が持たないよ〜! と思いながら私もにへらと笑みを返す。するとクラークさんは私の頬に触れた。


「ひゃ……。」


「シェナ、ゆっくり休むんだぞ。夜更かしや寝不足は乙女の天敵だからな。」


「はい……。休みますよ。不健康はよくありませんもの。」


くすくすと笑みを浮かべるとクラークさんは嬉しそうにまた笑う。それがなんだかもどかしくて嬉しかった。

エリックさんが、「明かりは付けたままですがすみませんね。もし、フェンさんの身に何かあった時に何時でも気付けるようにするためなので。」と言って明かりは付けたままだ。

きっと私の真っ赤になった顔が照らし出されてるのかもしれない。でも、そろそろ慣れてくれるはずだ。

目を瞑る。今日は色々なことがあった。魔王討伐――いや、魔王との和解を目指して私は眠りに就いた。


『お父様! シェナ、学校で1位を……。』


『そんなもの当たり前だろう。何を自慢しているんだ。』 


『そう、ですよね。ごめんなさい……。』


『運動は1位を取れているのか?』


『運動は……ちょっと苦手で。』


バシン! と子気味の良い音と共に打たれる。痛い。何かと思えば頬を叩かれた音だった。聖力を少し身体から出し、叩かれた頬を冷やす。

お父様の声は聞こえなかった。ただガミガミと何かを怒られたのだけを覚えている。

あぁ、あの時お父様は何を言ったんだっけ。あぁ、あの時お父様はどんな顔をしてたんだっけ。普段のお父様の声は? 顔は? 何一つ思い出せない。

忘れたい記憶。忘がたい記憶。掠れていく記憶。そうなるのはつまりいい傾向だと思う。嫌なことを覚えているより。

フェンさんのにかっと白い歯を見せて笑う笑顔。エリックさんの上品に手を当てて笑う笑顔。クラークさんのサファイアが微かに覗く笑顔。それ等を思い出せる今が素晴らしいということを、より強く痛感させられる夢だった。

少し痛む頭を抑えながら私は朝ごはんの準備をするため起き上がったのだった。

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