第8話 7月21日

もう大抵のことが起こっても驚かない。……そう、思っていたのに。

こればっかりは、異常という他なかった。

見えない壁。この廃墟は、一人の少女を決して外へ出さんと閉じ込めているのだ。まるで意志を持っているかのように。

…そんなことがありえるのだろうか。

……いや、ありえない。僕はやっと、今置かれている状況の不可解さを深刻に理解した。

だから、……だから、あの子のことを今一生懸命に調べている。

もう午前からずっとパソコンに食らいつき、時刻は午後6時を回っている。

まず、調査すべきことはなにか。それは、”むしという少女は何者なのか”ということではなく、”そもそもあの廃墟はなんなのか”ということだ。

特に何も考えずに毎日のようにあの廃墟に行っていたが、よくよく考えたらあまりにも謎に満ちている。なぜあんな所に、誰にも気づかれずずっと存在できていたのか。あの廃墟を知れば、自ずとむしちゃんのことも見えてくるのではないだろうか。

……しかし、いくら探してもあの廃墟の情報が得られない。

そもそもが山の中にあるので、どのマップを見ても名前はおろか廃墟そのものが出てこない。

うーむ、どうしたものか…。

……あそこって何時から開いてたっけ。おもむろにタブを開き、図書館の開館時刻を調べるのだった。


――――それからしばらくして、二駅隣の町の図書館にやって来た。

だが、どういった本を見ればよいのかてんで分からないので、司書さんに聞くことにした。

「あ、あの、すいません。」

「はい、どうされましたか?」

「えーっとその、なんというか、…檜川町の土地というか、歴史みたいなことを調べたいんですけど、どの本がいいのかなって…。」

「あぁ、なるほど。歴史・地理学ですね。よければよさそうなものを持ってきましょうか?」

「あ、お願いします。」

ほう、歴史地理学というのか。なんでも聞いてみるものだ。

しばらくすると、何冊か分厚い本を持って来てくれた。重い本を机まで運び、早速檜川町のページを探し始める。

……やはり兵庫県全域の地理書だけあって、探すのにそれなりに時間がかかる。しばらく食い入るようにペラペラとページをめくっていると…。

あった。

”檜川町”と書かれたてある地図に、グニャグニャとした山を表す模様があった。そこに佇む、たった一つの建造物。名前は……。


”鶴井アパート”


……なるほど、鶴井アパート。

………えっ?アパート?

ど、どういうこと?ていうか、これいつの地図?

……えっ??1925年!?!?

ますます訳が分からなくなった。今から約95年前って…ほぼ一世紀じゃん!な、なんでそんな時代に……。

なんてことだ。調べればなにかが分かると思っていたのに、余計頭がこんがらがってしまった。

と、とりあえず、今日分かったことをまとめてメモしてみよう。


・あの廃墟の名前は鶴井アパート

・1925年にはすでに存在していた

・アパートとは?それは不明

・なんの用途が?それも不明


……なんだこれは。なんのこっちゃ分からんぞ。

もんやりとした感情を胸に、僕は帰路につくのだった。


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