第17話◆ご飯作りは一旦終了です
※6/15配信の商業作品【女装上司ちゃんと部下の松坂君】の表紙と配信先一覧を近況ノートに掲載しました。
◆◇◆
ここ三日ほど遠征用の保存食(?)を作っていたらパパに呆れられた。
「メルくん、これ保存食って言わない。おいしい」
「はいそこ。作った傍からつまみ食いしないで」
「このスモークチキンがスパイス効いてて美味しい。ワインのお供に少し売って?」
息子(仮)が作って大皿にどっかり盛りつけたものを、片っ端から無断で試食しまくっているパパは先ほどからうるさい。
何種類もの肉や魚料理に副菜をたくさん作り、商業ギルドの伝手で大人の男性用の曲わっぱを大量にこさえてもらっておいたのに、メイン二種類、副菜三種類、新鮮お野菜という感じで詰めていく。
その詰めの作業に人手が足りないので、お屋敷の暇な人に手伝ってもらっていたのだが……。
なぜかパパも交じってましてね……?
「あー、この豆をひき肉とスパイスとトマトで煮込んだやつ美味しい……」
「チリコンカンっていうんだ。この薄いパンにのせて食べると美味しいよ」
ちょっと黙らせようと、つまみ食い用に焼いておいたナンを千切って載せてやる。
その上から削ったチーズと自分で調合したカレー粉(?)を少々振りかける。
「何これ!美味しい!」
「パパ、ちゃんと手を動かして?ちゃんとご褒美用意してるから」
「うん、パパ頑張るよ!」
うん、まぁ……頑張ってくれるならいいか。
パン類はそのまま種類ごとに10個をまとめて薄手の袋に詰めていく。これが6種各100袋。
パスタ、ペンネ、うどん、中華麺等の麺類は1.5人前位で玉を作り、深皿に入れたのを各100皿。
中華麺用のスープは鶏ハム作った時に出た煮汁や丸どりなんかを煮込んで作ったので塩ベースのみを寸胴で5つ分。
塩のみなのは野菜いれてスープに転用すればいい、と思ったんだけれどやはり醤油と味噌が欲しいかな。
蕎麦は割愛した。そもそも蕎麦の実自体がなかったし。
そしてOKOME。お米あったからね!
急遽土魔法で9号サイズの土鍋を量産してお米5合分を炊きまくった。
その内の何個分かはアリスにおにぎりにしてもらい、三個セットで保存用の大きな葉で包んだ。
味はランダム。唐揚げおにぎりや天むすも作ったので夜食にもちょうどいいだろう。
雑穀扱いだったので家畜の餌だったりしたけれど、ちゃんと水分含ませて土鍋で炊いて食べさせたら、パパが量産体制をラルに命じてた。
まぁ、うん。ライスはサラダにもなるよ、病気の時におかゆにするといいよ、おにぎりとかお米焼きもおいしいし、玄米も栄養があるよ、とプレゼンしておいた。
これで安定供給出来ればいいんだけれど、水田に適している土地を探さないといけないらしく、土魔法と水魔法、探知魔法を使える人を手配するそうだ。
ところでパパは領地を持ってないのでは?と聞いたら伯爵家としては下賜されてないけれど、個人で先代当主の遺産分けで貰った不毛の地が少々あるらしい。
別に要らなかったんだけれどね、と心境を語っていたが、水田に適していれば頑張ってみるそうだ。
頑張れぱぱ、俺がいる間にお米作り成功させてね!
「メル様、こちらのわっぱで最後です」
「ありがとう、みんな。料理が少し余ったからみんなで分けて」
と、大皿30杯に少々の余りしかないが、みんなは喜んでくれた。
中でも喜んだのはパパで、早速自分の労働対価分のおつまみ系を皿に入れて行った。
今日はこのままワインを飲みながら少し仕事をするようだ。
他の皆には先日作った自分用のクッキーアラカルト(約100枚入り)を三袋渡し、片付けて自室へ戻る。
「とりあえず、当面……一年は旅をしてても何とかなる量が作れてよかった。作って居ℛ最中は良かったが、詰め作業はどうしても人手がなぁ……」
「皆様が手伝ってくれてよかったです」
「そうだな」
アリスが淹れてくれた紅茶を飲みながら、ふう、と一息ついた。
お茶請けはアリスが隙を見て作ってくれたフロランタンとレモンアイシングのパウンドケーキ。
美味しいから持っていきたいお願いしておいた。
「明日から座学ですか?」
「そうだな、アリスがこれまで得た情報とのすり合わせ作業でもあるし、生の追加情も出てくるだろう。あとは国の位置関係も偏差しているだろうし……」
「そうですね、私はこの国にとどまっていたので、魔族国がどの程度移動したのかはちょっと……」
「一応、つい最近まで国交は続いてたらしいから、その時点まで知られればいいかな。あとは冒険者ギルドでの情報頼みだ」
紅茶を新しく淹れてもらい、パウンドケーキをぱくり。
アイシングの中にちょっと大きめレモンの皮が入ってるし、生地の中にはレモンチャンクが仕込まれている。本当にうまいなこれ。
日本に帰る算段が付いたらアリスを連れて行きたい。
「野良ダンジョンもいくんですよね?」
「いくぞー?あんな面白いテーマパーク見過ごせるかって話だ」
「セレンテス様やルリチェ様にとってはテーマパークどころじゃないと思いますぅ……」
「なぁに、俺の戦闘訓練にちょっとだけ付き合ってくれればいいんだよ、ちょっとだけ」
「一気踏破はちょっとじゃないのですが……。そうですね、あのお二人にはもう少しステップアップしてもらわないと、何かあった時に困りますから」
まぁ、足手まといとは言わないまでも、少々戦力不足気味ではあるんだよな。
例のパパの【影の軍団】でどの程度ブラッシュアップされるか期待したい。
「ふわぁ……。流石にほぼ寝てない状況が1週間続くと眠いな?」
「そうですね、私も少々下がらせてもらいます」
「ありがとうな、アリス」
「メル様の為でしたら」
アリスは俺の専属メイドなので、居間の隣にあるメイド部屋に引っ越している。
居間の隣に俺の寝室があり、メイド部屋繋がっている。
何かあれば小声で呼んでも気付くから、オースワークスメイドってすごいよな。
「明日から3週間、基礎訓練と座学か……。まぁ詰め込めるだけ詰めるかね……」
俺は干したてふかふかの布団の中に潜り込み、体を丸めて意識を落とした……。
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