第16話◆ご飯はおいしい
◆◇◆
オーウェンさんがなんか疲れているようなので。
ギルド本部の半地下には総合キッチンがある。
ここは一階に併設された食事処(酒場)と従業員食堂の料理を取り仕切っている場所だった。
酒場はともかく、従業員用の食事に栄養学とか取り込んでないんだろうなぁ、って思ったよ。
だって、何年も前から変わってないだろう1週間のメニュー表が黄ばんでるんだもの。メニュー改善とかされてないでしょ、これ。
日替わりだという肉はともかくその他のメニューが芋、パン、パスタ系と豆料理ばかり。
野菜類は申し訳程度しか入ってない、クズ野菜のスープで味付けは塩のみ。
配膳口に並んだら出てきて、多い少ないはその都度……という学食の様なシステムだった。
今は昼過ぎで空いているから大丈夫らしい。
ついでにその場にある食材も使わせてもらえることになった。
話を聞いた雇われ料理人も興味本位で残ることにしたらしく、傍で見ることの許可を求めてきた。
尼にならないように、とテーブルについてもらい、作業を開始する。
「さてと……疲労回復メニューは……っと」
空間収納から取り出した10インチのタブレットの電源を入れ、お気に入りの料理本を開く。
「基本は豚肉と鶏肉か……。定番だけれど生姜焼きとから揚げ……、鶏ハムも作るか。あとはお野菜スープにショートパスタも入れて……。カロリー度外視で色々と旁かな……ふむふむ……」
いくら同じような食材があるとて、鶏卵を生で出すのは嫌がる人もいるだろう。
この世界の卵だって浄化と洗浄さえきっちり掛ければ生でも行けるはずなんだけどね。
あまりにも美味しすぎて買ってしまった宮崎県産地鶏の肉20キロと高級卵が50個ほどあるんだけれど、これは別口で使おう……。
あ、プリン食べたいから作るかなー。
「す……すごいですよギルマス。メル坊ちゃんが分身してる……」
「アリスお姉様はあの速さの調理についていけるの?私も料理はしますが無理ですよ……」
料理人さんとメイフェさんがなんかぼそぼそ喋ってるな。
製菓作りで使ってるゼラチンがあるので、それは生姜焼きにも使おう。これを使うと冷えてもジューシーさは失わず、おいしいからな。
アリスには俺の思考を読み取ってもらい、下準備を任せているのだがある程度の事ならできるというので任せてみたけど、充分な働きだ。
流石オールワークスメイドというだけあって、万能だわ。
ワイルドボアのバラ肉部分を一口大に切り薄力粉をまぶす。
薄力粉に関しては単語自体が解らなかったようで、クッキーなんかを作る方の粉って言ったら出してくれた。
この世界でも薄力粉(主にクッキー類)、強力粉(パン類)は在るみたいなんだけれど、中力粉がないのは混ぜて使っているからだそうだ。
麺類は混ぜたのを使うので、店によって少々味も違うらしい。
さて、ショウガ、大蒜少し、塩コショウ、市場で買ってきた醤油っぽい何かとゼラチン粉を機のボウルに混ぜ込んで置いておく。
玉ねぎはくし切りにして、彩を添えるために人参を少々太目の千切りに。
ボアの脂身を溶かしたフライパンに玉ねぎと人参を入れて炒めて……。
肉投入、タレ投入でさっと火を通して出来上がり。
アリスが千切りキャベツを載せた皿を出してきたのでどっさりと入れた。
それから鶏ハムを仕込みつつ唐揚げやオムレツ、玉ねぎとベーコンのジンジャースープ、デザートにプリンとフルーツゼリーなんかも出してみた。
今は横で叉焼が煮込まれているから、出来上がったら切ってだそう。
「厨房にあった食材も使わせてもらったのでたくさん作ることができた、感謝する。さぁ、食べてもらってもいいかな?」
そういって出来上がった料理を次々と運び、賞味してもらう。
はい、満場一致で「美味い!」を頂きました。有難うございます。
はー、満足満足。
アリスとの連携の確認にもなったし、これなら旅が1年かかろうと3食分の調理は問題ないだろう。
よーし!明日から厨房にこもるぞ。
◆◇◆
「てことでお家の厨房を借りました」
自分のテリトリーを侵されなくはないだろうシェフとスー・シェフを叉焼とプリンで黙らせ、他の料理人にもクッキーを10枚ほど握らせて出て行ってもらった。
タイムラグなしで連携できるアリスと二人だけの方が効率がいいんだもん……。
借りられた時間は朝の仕込みが終わってから朝食の支度が始まる約5時間。
それだけあれば十分だ。
「さて、アリス。これから旅に出る為のご飯作りにはいる。旅の途中でも美味し宇手暖かくて柔らかいふわふわなパン、食べたいかー!」
「たべたいでーす!」
「毎食は出せないけれど、道中のおやつが食べたいかー!」
「たべたいでーす!」
某クイズ番組的なノリで気合を入れて目標2か月分×3食とおやつを作る。
おやつのメインはクッキー。
プレーン、塩キャラメル、チョコ、ドライフルーツ入り、紅茶、アーモンド。
手間のかからないアイスボックス系とショートブレッド、ビスコッティ、フロランタン等々。
作り方の動画を見せたのでアリスにお任せした。生地を寝かせる時間が惜しいので、時間経過10倍の収納袋を作って渡してある。
その間俺はひたすらに野菜を切り続けた。
しってるかー?食に対して変態的な意欲を見せる国で育つとな、主だった切り方18種類が難なく覚えることができるんだぞ。
料理によって切り方が違うし、余らせる気負いで切り続けたよ……。
ああ、フードプロセッサーが欲しい……。
市場で買ってきた野菜類を、同じく市場で大量購入した大きな木の器にこんもりと積み上げたものをどんどん収納していく。
使う時に出せばいいしな。
「そろそろ時間だな……、アリスの方はどうだ?」
「はい、たくさん作れました」
流石伯爵家の巨大キッチン。
オーブンが2台もあるおかげで大量のクッキーが積み上げられていた。
これは60㎝サイズ位の木の箱に布で作った袋を入れ、ランダムで詰め込んだものをいくつも作った。
アラカルトで見た目も楽しいしね。ぱっと出せて食べられるので重宝するやつだ。
「アリスはとりあえずあと2日はクッキー作りと、プラスし1日は固いクッキーだけ作ってくれ。俺が好きだったやつだから知ってるよね」
「あれですね。たまにメル様が口にくわえたまま寝てたやつ」
「そう、あれ。固いクッキーは好みがあるからそれだけで纏めといてくれ」
「わかりました」
食事通りで当面寝れそうにないけれど、魔王時代やシュリ時代よりは健康的生活になってるからいいか。
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