第15話◆今更ながらに己を知る

2022/06/01:お金の単位を変更しました。詳細は11話をどうぞ。

◆◇◆



「メルくん、多分君は自分の事を一番よくわかってないんじゃないかなぁ」


 アリスがオーウェンさん、メイフェさん相手にアイテム販売の交渉をしている間、俺はパパから説教を食らっていた。


「知ってますよ。元魔王です。普通に」

「その普通の基準がねバカ高いの」

「バカ高い……?」


 俺は内政向きの性格を見込まれて魔王継承したんですけれど?

 魔族国というと戦闘民族みたいなイメージがあるかもしれないが、どっちかっていうとそれは人間国の方だった。

 魔族国は有り余る魔力で魔物を間引いたり、食料化・工芸化の研究をして貿易に上乗せしていたのに。

 人間国、ただ見た目がアレってだけで迫害するし暴力ふるう意訳わかんない自分本位の言いがかりを付けてきては攻め入ってくるから、毎回説得と話し合いとダメなら武力行使をしてきただけなんだけれど……。

 十中八九、人間国の方が戦闘民族だろ。


「内政魔王って言われてたんですが……。多少、肉体言語でのOHANASHI☆はしましたが……」

「その肉体言語で負けた記憶ある?」

「ないですね。むしろ人間国のガバガバな戦術と見合わない戦力差にちょっと可哀想な気もしてました」

「そういう所だよ、メルくん」


 どういう所ですかぁ!


「あのね、魔王職っていうのはスキルやステータスが継承されていくって言ってたよね」

「そうですね、スキルについては膨大過ぎて使ったことがない物がほとんどですが」


 整地スキルはともかく、せんべいを早く焼くスキルとかどないせいっちゅーねん。

 料理作成高速化スキルは魔物討伐の時に役に立ったけれど。

 採れたて食材であったかい料理を食べる……いいね。


「長々と続いてきた上書きされたスキルとステータスだとね……もう同じ魔族の猛者でも小指一本で勝てると思った方がいいよ。内政向きの性格でも」

「……」


 そういうものなのだろうか?

 だって俺、右腕と騎士団長よりもひ弱な存在だったんだよ?

 二人とも内政は不向きってNOを突き付けたので俺が魔王に選ばれただけで。


「そういう訳で、メルくんが出したアイテムの殆どは買い取れてもほぼ死蔵決定なんだよねぇ。何せ武器が強力すぎるから、この国の騎士団に渡して良い物かどうか……。それにほら、魔王を討て、とか言われて召喚されたでしょ?」

「あんなもん渡したら、増長して自分らで魔王を討ちにいくよなぁ……」

「そうなんだよ。それに今の魔王は女性だけれど武力も知力も申し分ないみたいだし」

「へー」

「君が生きているおかげで継承スキルもまっさらな一代目だからね、そりゃ逸材が据えられるでしょ」


 あー。そうか……、そうだった。

 魔王の子の継承スキルは儀式によっての譲渡か、譲渡前に死んだら魔王城の最深部にある魔王石に記録され、新たな魔王に継承するシステムになっている。

 でも俺は死んでないし、移転しただけだし、スキルもそのまま使える……。


「ってことは……」

「まぁあの国王が魔王討伐とか言い出したのも、その辺の『今の魔族国、魔王が一代目だから大した戦力はないだろう』っていう楽観的発想があるね。相手は魔族なのに」

「……」


 あの国王ほんとバカだなぁ。

 魔族っていうのは人間と違って魔力が高ければ高いほど長寿になるし、取得スキルも増えていく。

 そして、件の魔王が一代目であるならば、俺が転移してしまったあたりで選ばれたとしても、200年近く生きている、という事だ。

 それに、新規一代目ともなれば後続を考えると責任重大だ。

 今まですっと、研鑽に研鑽を重ね、改善し、努力もしてきたのだろう。

 それを、ずっと好きで告白しようとしたら結婚しちゃった逆恨みで魔王討伐に乗り出し、他力本願で使い捨て出来る勇者を異世界召喚しました、ってか。

 救えないなぁ。国民かわいそう。

 いい加減この国は国民投票で、今よりもマシな国王を選出すべきじゃないか?


「それとメル様。今思い出したのですが……」

「なぁに?アリス」

「メル様が異世界転移してからなのですが、世界的に魔素や自然エネルギーのバランスがおかしくなり、魔物の生息地や個体数が激変しているというデータもあります」

 

 金額交渉が済んだらしいアリスがそんなことを言ってきた。

 オーウェンさんやメイフェさんはなんかぐったりしているけど、見ないふりしておくか……。

 そういえば渡されたデータでもそうなっていたな。

 あれ、これって……もしかして……。


「パパ、200年前を境に魔物の生息地や個体数が減ったのって、勇者召喚のせいかもしれない」

「え?」

「メル坊、それは本当か?」

「メル君、どういうことなの?」


 3人が食い気味に聞いてくるので少々びびってしまった。

 ほら、僕今12歳あたりだし?


「勇者召喚には膨大なエネルギーや季節、惑星の位置なんかが必要なんだけれど、異世界……ていうか亜空間召喚かな、この場合、それを開くためにこの世界の魔素の蓄積量も逸れないℛに必要なんだよ。魔素や魔力は数十人単位で相当数の魔力量保持者がいればなんとかなるんだけれど……」


 そこでいったん区切って、アリスが淹れてくれた温めの紅茶を飲み干す。


「そのせいでこの大陸……いや、星か、それの魔素濃度がかなりの量消費されたから、魔物は魔素が濃い他の地域へ移動したり、途中で淘汰されていった。パパ、この200年、この国近辺は割と平和だったはずだよ。ギルドに討伐記録が残されているのなら調べてもそう出ると思う」

「そのせいで冒険者のレベルアップも難しくなり……」

「魔物や冒険者の強さの質も落ちている……ということね?メル君」


イグザクトリィ、そういう事です。



◆◇◆



と、まぁちょっとした疑問も晴れたことなので、アリスに任せていた交渉の結果を聞いてみる。


「いくらになったかな。カカオッチ買える?」


 カカオッチはその名前の通りカカオの事で、ご想像通りにココアやチョコになるアレだ。

 ふと思ったんだけれど、この世界と地球って割と似てるんだよね。

 重力とかもだけど、気圧や水圧、海と陸地のバランスなんかも。

 理不尽かな?と思うのは夜空の月が三か月に一度、2個から3個になるくらいかな?

 後から現れる月は形が弦月のまま、なんだけれど。

 まぁ俺としては食材が欲しいので金はあって困らない。

 なんなら転移魔法で他国に買い付けに行ってもいい。


「余裕で買えます。全体の3割しか売れませんでしたが、合計で白金貨3000枚です」


 ……ん?

 いくらなんでもおかしくないですか?

 そんな疑問に満ちた目をオーウェンさんに向けると、さっと目を逸らされた。


「……値引き交渉してもいいんですよ……?」

「いや、これでも十分に温情をもって値引きしてくれたんだよ……。エルシー姉さんにも言ったが、これ以上の値引きは罪悪感で死にそうなんで勘弁してくれ……」


 あの逆鱗はもとより、俺が作った宝石竜の小さな鱗のネックレスも買い取り対象だったようだ。

 これくらいはいいよね、と俺はメイフェさんに宝石竜の小さな鱗とクズ宝石を加工して作ったストラップを握らせた。

 メイフェさんはもう断る気力もない今のうちにね……うん。


「とりあえず、金貨500枚分と銀貨1000枚分、崩してもらってもいい?残りはギルド口座に記録してくれてていいから……」

 

 市場で白金貨とか出したくありませんからね!

 お釣りがないよ!っておばちゃんにどやされる案件だわ。


「助かる……」

「こういう裏技でいいなら、もっと買ってもいいんですよ?」

「心臓に穴空いて死ぬから辞めてくれ……」


 どうせ数字だけの操作なので、倉庫に出したものをそのまま引き取ってくれててもいいのにー。


「その金で何か買うのか?今日も市場に行ってきたようだが」

「うん、食材かってたんだ。道中の美味しい生活の為に」

「食材……」

「干し肉と黒固パンだけとか嫌だもん。旅している間でも美味しくて暖かいごはん食べたいからね。帰ったら厨房でいろいろ作るよ」


 ふふーんと胸を張ると、オーウェンさんが少し考えてから口を開いた。


「そうか、メル坊は異世界の食事に精通してるのか」

「精通ってほどじゃないけれど、小さい頃に料理コンテストで優勝はしたよ」


 日本での食文化に感銘を受け、ろそんごはんとスイーツで味覚改善パンチで打ちのめされた俺が、料理スキルを駆使して味の解明、作成にのめり込むなど火を見るより明らかだ。

 そして料理法を片っ端から学び、分子美食学……分子ガストロノミーを勉強した時は感動したね。

 今まで俺がなんとなく時間を置いた方がおいしくなる……?と感じていたものが食に対する答えが情熱と研究で数値化され、学術としてあったのだから。


「ギルドの食堂のキッチンを使っていいから、何か作ってはkれないだろうか?」

「私もちょっと興味があるわ」

「ええ、あのろそんと同じものが出てくるんだろう?」

 

 と、それぞれに期待に満ちた目を向けられてしまったら……しょうがない、一肌脱ぎますかね……。


 je vais cuisiner。料理を始めます。


 

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