第18話◆【閑話】オールワークスメイドです

今回はアリス視点です


◆◇◆



 私の名前はアリス……いえ、エイリアス№6と申します。

 現在はライズ家でオールワークスメイドとして務めさせて頂いております。

 本来の私は魔族国からのスパイ……というか人間国の現地密着情報収集型エイリアスで、魔族国のとある魔王様の分身体です。


 そんな私がなぜメイドをしているかというお話です。

 少々お時間を頂きますね。



◆◇◆



「……もしかして、詰みました?」


 その瞬間、私に起きた違和感を瞬時に解析して一つの解答を得た私は、買い物途中の小道でふと立ち止まりました。

 私たち6体の分身体は魔王様からの魔力供給によって稼働しております。

 その供給源が急に薄くなってしまったのです。

 しいて言うなら今までの1割ほどしか繋がっていないのです。

 最低限の性能しか持たされていないみそっかすの私でさえ感じ取れる異常事態、他の兄さま姉さまたちが気づかない訳がありません。

 噴水広場にいた私は少し移動して座り込んだ、心臓がバクバクとうるさく、体温がひゅっと下がっていく。

 どうしよう……と逡巡していたら、ブラザーラインに反応がありました。

 

 ブラザーライン。

 私たち分身体だけが使える魔力感応による念話と思ってください。

 兄弟たち専用の緊急時用の魔道具を使った通信機具で、使用すれば魔力感知の危険性がありますが、そうも言ってられません。

 すぐさま念話に参加します。


№1「よかった、みんなは無事かい?」

№2「わかっていると思いますが、エンディア様との繋がりが薄くなりました。№3,貴方はエンディア様の近くにいましたよね、どういうことですか?」

№3「……落ち着いて聞いてほしい……エンディア様が勇者に倒された後、いなくなってしまった……」

全員「「「「「は????」」」」

№4「おい、№3!お前は傍で何してたんだ!?ちっ、やはり私がついていれば……」

№1「№4、それは違うよ。№3がいても回避できなかったとなると、この場の全員誰がいても同じ結果になったという事だ」

№5「それにさ、つながりが薄くなった、っていう事はエンディア様は勇者に倒されてはいないってことだよね?その辺の解析はどうだとおもう?№6」

「は、はい。兄さま方、姉さま方。私の解析結果は『エンディア様は存命、しかしここではない場所にいる』となっております」

№2「ふむ。兄弟の中でも情報解析に特化したあなたが言うのであればその可能性が大きいでしょう」

№3「微弱だけれどエンディア様を感じられる」

№4「くっ……あのクソ国王……いずれ礼をしなくては……!」

№1「僕たちが消えていないっていう最大の結果があるのは救いだよね。ならば今の所は各自の任務を続行、エンディア様の行方を最優先事項に設定、でいいかな?」

№2「はい、では人間国にいるものはそのまま、魔族国にいるものは戦後の処理、でよろしいか?」

№5「うん、りょーかいしました!」

№4「……癪だがそうするしかあるまい。エンディア様が守られた魔族国をこれ以上人間に荒らされてたまるか」

№3「わかった……」

「私もこのまま現地におります。何かあれば情報は共有しますのでいつでもお声をかけてください、兄さま方、姉さま方」


 やはり、皆様気付いてらした。

 エンディア様との繋がりがただ薄くなっただけで存命であることを。

 なんという素晴らしい兄さま方、姉さま方なんだろう。不詳、この末っ子もがんばらねば!


 さて、これからの方針が決まったのであれば、これからを見据えて何とかしなければ……。

 いち兄様はこのまま王城に努めている宰相の秘書をして情報をえてくれるだろう。

 ごうちゃんは魔族国に近い辺境伯の養子になっていたはずなので、にい兄さまたちとの連絡は可能だ。

 そうすると、王都に残ってただふらふらと街を歩いている私はどうしたらいいのか……。

 うーん……なにも考えられない……。

 ブラサーラインに接続して教えを請おうにも、今言うべき音ではないような気もする……。

 とりあえず座り込んで考え込んでいたら、声を掛けられた。


「どうしましたかな? お嬢さん……。もしかして気分でも悪いのかな?」

「……え?」


 座り込んで絶望的な顔をしていれば、急に気分が悪くなったと思われても仕方がない……か。

 よく見れば声をかけてくれた初老の男性に心当たりがあった。


「ロクシール公爵様……?」

「おや、お嬢さんは私をご存じで?」


 はい、この国の貴族は調査対象でしたから。だなんて言えませんので言葉を濁す。


「はい、先日の魔物討伐にてお姿を拝見いたしました。あの時のエルダーブラックベア討伐はお見事でした」

「いやはや、若いお嬢さんにも知ってもらえてるとなると、年甲斐もなく照れてしまいますな」


 そうですね。あなた今65歳だった気がします。

 それなのにベア系魔物最上級であるエルダーブラックベアをサシで葬り、最前線で突撃して魔物を数十匹も蹴散らしたとかこの人間怖いです。


「ところでご気分は?移動できるのであればそこのカフェで飲み物をごちそうしますので、少々この老人の休憩にお付き合いいただけますかな?」

「……はい」


 明らかに挙動不審の私に対して気を使ってくれてます。

 本来のお貴族様なんて道端で人が座り込んでいても無視ですのに。


「あそこのカフェはイチゴタルトとアイシングパウンドケーキがお勧めでして、ご気分が回復した際に注文いたしましょう」


 ……もしかして、一人でカフェにいくのが恥ずかしいとかじゃないですよね?

 私もご相伴にあずかれるのならついていきましょうとも。



◆◇◆



「お気遣いありがとうございます……」

「お気になさらずに」


 カフェに移動してケーキセットを頼んだあと、テラス席で一息ついた私はぽつぽつとあそこで座ってた理由を告げた。

 魔王様がいなくなったので、分身体である私はパニックになってました。

 とか言えませんので嘘を少々まぜて……。


「実は勤め先(魔王様)が急に(どこか別世界だろう場所に)移転してしまいまして……」

「おや、それは大変ではないですか」

「今まで貯めたもの(魔力)がありますのでしばらくの生活(稼働)には問題はないのですが、これから先(の魔力供給)をどうしたらいいのか悩んでしまって……」

「ふむ……衣食住が不安ですね」

「そうなんです。衣食住(供給源)は生きていく上で大切ですので」


 ロクシール公爵様はふむ、と頷いた。


「お嬢さん、少々質問をしてもよろしいか?」

「あ、はい。そういえば名乗っておりませんでしたね。ご無礼をお許しください。私はエイリアス№……、いえ、エイリアスと申します」

「ご丁寧にありがとう。そういえば私もお嬢さんが知っているからと名乗りもしませんでしたな。イシュマエル・ロンダル・ロクシール。ロクシール侯爵家当主です」

「ありがとうございます。ロクシール公爵様」

「少々不躾でしたが、お嬢さんの立ち振る舞いや言葉遣いには気品が感じられます。もし読み書き計算できるようであれば、我が公爵家で雇いたいと思うのだが、いかがでしょう?」


 なんですって……?

 言葉使い、立ち振る舞い、読み書き計算は分身体として造られた瞬間から魔王様からラーニングをしているし。いち兄様にい兄様にも教えをうけております。

 そういわれると魔王様やいち兄様、にい兄様が褒められたようでうれしくなります。


「ありがとうございます。是非に……と申したいのですが、私は平民で身分証は冒険者カードしかありませんが、よろしいのでしょうか?」


 この国は人間の管理が行き届かせようとしている途中の段階だった。

 平民でもちゃんとした国の審査に通れば、国が補償する市民証が発行される。

 それ以外での身元保証書となると、冒険者ギルドや商業ギルド等に登録するしかない。

 それでも、国の保証に比べれば信頼度は低いといえよう。


「おや、お嬢さんは冒険者も?」

「いえ。薬草(や魔物)の知識があるので、それ(魔物)を売ったり(討ったり)しておりました」

「ほう、薬草の知識まで……。冒険者カードがあるのであれば問題はないでしょう。どうですか?突然のお話ですが、我がロクシール家に来ては頂けでしょうか?」


 ふむ……、これは渡りに船、というやつでしょうか?

 とんとん拍子に話が進んでいきます。


「まずは下働きからとなりますが、お嬢さんの様子ではすぐにお屋敷メイドになれるでしょう」

「わかりました。これも何かのご縁、ロクシール公爵様の元で(人間国をもっと)勉強したくおもいます」

「では公爵家に務めるにあたり、義務や鉄則、給与の話などしましょうか……。と、その前に……」


 お祝いですよ、と店のケーキが全種類運ばれてきた。

 嬉しい。


 こうして私、エイリアス№6はこの国で情報収集を続けるための、衣食住を手に入れた。





 


 

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