第10話◆今後の為にちょっとしたアイテムを作りました

 食事の後、セレンテスさんとルリチェさんが伯爵家を訪ねてきた。

 他のパーティメンバーが所用で帰ってくるのが遅くなり、そのまま今後の話し合いになった結果、少々訪ねるのが遅くなったと謝罪した。

 冒険者っていうと礼儀は三の次みたいな対応をする者が多いと聞いていたが、さすがに王都の冒険者にはそれなりのマナー講座を定期的に受講させているらしい。

 いつ貴族様方からの依頼が舞い込むかわからないからね、とパパは説明してくれた。

 確かに、依頼を受ける冒険者といえども最低限の礼儀が無ければ侮辱罪や手打ちにもなりえるし、マナー講座がランクアップの必須条件になれば憂いも少なくなるだろう。

 マナー講座以外にも基礎戦闘・体術、料理や解体、初級ポーションなどのアイテム作りの講座もあり、基本無料で受け付けしてくれるようだ。

 細かいものを含めると40講座ほどもあるようで、俺はよく新聞広告にくっついてくる生涯学習的なアレを思い出した。

 あれ、何個か受けてみたいのがあるんだよなぁ。


「こちらとしてはいつでも坊ちゃんについていくことはできるぜ」

「ルートによっては補給の関係もあるから、二日ほど準備を貰えると嬉しいわ」

 

 坊ちゃん……。

 早速俺への対応が違う……が、他の人の目もあるからだろう。

 むず痒いが、享受するしかない。


「それなんだけれどね、メル君にこの世界の事を少々勉強してもらいたいので1ヶ月の猶予を貰いたい。その間の契約金は前払いで渡しておくよ。なんなら依頼を受けてもいいし、ウチの私兵騎士団に混ざって訓練をしてくれててもいいが、どうするね?」

「伯爵様の私兵って、あの……『影の軍団』……か?」


 なんだその時代劇なネーミングは……。

 ぱぱ、そんな物騒な軍団もってるの?


「そう言われてるみたいだけどねぇ……。僕としては『普通に』『僕が鍛えて』『教育した』だけだから、そこまでじゃないよ」


 ははは、とパパは穏やかに笑っている。

 普通、という文字を広辞苑にマーキングしてあげたい……。


「あの、魔法師団にも教えをご教授できるのでしょうか!」


 ルリチェさんが食い気味に質問している。

 ルリチェさんももれなく魔法オタクか。

 魔法使いってのは自分の使える属性以外への探求心はすごいからなぁ。

 それにルリチェさんは多彩で魔法は火と風、回復系は光と水が使える。

 風と水が使えるという事はブースト系の補助魔法も使えるという訳だ。

 セレンテスさんはバリバリの戦士職だが盾術と自己ブーストも使え、更にはLV1だが鑑定も使えると話してくれた。


「俺としては盾術を教えてほしいかな。守る方が多そうだ」

「そうね、私も補助と回復の底上げをしたいわ」


 二人の言葉にぱぱはにっこりと笑って頷いた。

 疑いたい、その笑顔。

 これ、確実にブートキャンプ的なコースだな。

 一ヶ月後、この二人の人格が変わってないことを祈ろう……。

 さて、俺はというと……。


「メル君は一か月間座学だね。僕は仕事で忙しいから執事のラルに教わるといい」

「宜しくお願い致します、メル様」

「ありがとうパパ。よろしくね、ラル」


 こうして、諸国漫遊……じゃない、調査の旅への準備は着々と進むのであった。



◆◇◆



「メル様、それは何を?」

「ちょっとしたアイテム作りかな。おまえの分もあるぞ、アリス」

「?」


 毎日の勉強と訓練が終わった後、俺は自室でアイテム作りを始めていた。

 当初の予定通り、3部屋ブチ抜きで改築された俺の部屋には、工房や資料室なども作られていた。

 俺の部屋は三階にあるのだが、コの字型建築のお屋敷の西側のすべてが使われていた。


「工房はありがたいな。ただ、防御系の魔法陣は脆弱だったから書き直す手間はあったがな」

「素材棚も充実してますね」

「そうだな」


 用意された工房の素材棚には稀少な素材も準備されていた。

 それに各種魔石まで。

 これでいろいろなポーションや魔道具も作り放題だ。


「まずは……と」


 極上の魔装布にレベル5以上の魔石、必要素材と空間魔法をこねこねして……と。

 てってれ~♪


「魔法の鞄の出来上がり~!」

「おお!」


 出来立てほやほやのB4サイズのショルダーバックタイプを掲げれば、アリスはパチパチと手を叩いてくれた。


「これを容量そのままで各種作ります!」

「でも……お高いのでしょう?」

「……まぁな。人間だとむかーしから血の継承を繰り返してる生粋の魔法使いじゃないと、ちょっと難しいな」


 何せ、空間魔法自体使える人物が少ないのだ。

 魔法使いの一族が数十代と血の継承を繰り返し、魔力濃度を上げないと空間を固定するもが難しい。

 もしくはダンジョン産で手に入れるしかないが、ユニークミミックやレジェンド級宝箱からしか出ないので、とてもお高い。

 俺は魔王のスキルを継承し、底上げもあったから作れたようなものだ。


「お前にはこのウエストポーチタイプ。セレンテスさんとルリチェさんにはボディバッグのサイズ違い、パパには俺と同じショルダーバッグかな。容量は10メートル立方で重さ5トンまで。これが一番作りやすいんだよな」

「時間経過はどうなのですか?」

「ないな。保存した状態のままだ。ソート機能と同一素材なら300までいける」

「と、いうことは……」

「ご飯がいつでもおいしく頂ける……!」

「早速厨房の使用許可をもらってきます!」


 うむ、頼んだぞ!アリス。

 おいしいごはんは大事なのです。

 これからは暇をみて、ご飯を沢山作るぞ!

 あとスイーツもな! 作りまくるぞー! おー!

 目指せ!ろそんスイーツ!


 



 

 

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