第9話◆メイドさんは説明する

※近況ノートにアリスの絵姿を公開しました。

◆◇◆



 アリス……いや、エイリアス№6は俺の分身体である。

 200年まえの前国王の許可の元、この国に潜り込ませていた情緒収集用分身体だ。

 前国王公認っていうのもおかしい気がするが、前国王曰く『あのバカ息子がなんかしでかすと面倒なので抑止力として数体送り込んでおけばお前も楽だろう?』だそうで。

 それならばと分身体№1,5,6を送り出した。

 その内の1体がこのエイリアス№6だ。

 なんでこの家にいるんだ?

 いや、そもそもなんで200年も稼働してるんだ?

 魔力供給どうした??


「説明を」

「はい、エンディア様。まず私エイリアス№6はこの国でずっと情報収集を続けておりました」

「200年もの間か?」

「はい。エンディア様からの任である、戦力・他国との貿易や繋がり・魔物の分布・冒険者の質など様々に」


 一応すっと仕事してたのか……。

 メイドとして第二の就職先を見つけてエンジョイライフを満喫してたんじゃなかったのか……。


「1と5は?他の分身体の現状は?」

「いち兄様は一度国元に戻り、休眠の後に現魔王様と仮契約をして秘書として稼働しております。ごうくんは戻って休眠したままです。にい兄様とさんちゃんは同じく休眠中です。しい姉様は冒険者として世界各地を見聞している最中ですね。たまにお手紙が届きます」

「№4……あいつはほんとに自由だからなぁ……」


 分身体にも特性を持たせて個別化を図っている。

 №1は有能な秘書タイプ。銀髪長身メガネ。

 №2は№1をサポートしつつ№3以下から集まった情報の整理や記録を。金髪長身モノクル。№1と双子設定という感じで。

 №3は主に暗部的な仕事を。そのために小柄な少女タイプにしてある。薄紫髪に赤目。

 №4は戦闘力特化として指揮官能力を与えている。赤髪のお姉さんタイプ。

 №5は№3と同じく小柄で緑髪に金目で屈託のない弟キャラ兼癒し的な?


 で、№6はというと……。実は作る気が無かったんだよねぇ。

 でも情報収集特化が必要になり、慌てて作ったので他の分身体よりも性能は劣るが万能タイプで末っ子扱いされている。


「ここにいるのはなんでだ?」

「エンディア様からの魔力供給が難しくなったのでどうしようとと迷っていたら、この家のご先祖様に拾っていただきました。それからサリ様が家を興す時に引き抜かれて、ずっとオールワークスメイドとして働いております。」

「……200年もずっといて、他のみんなはおかしいと思わなかったのか??」


 うん、ちょっとおかしいだろ。200年だぞ200年……。


「いえそれが……みんな勝手に推測しては納得してしまったので、今更訂正するのも面倒だと思いまして……」

「大丈夫なのかここんちのヒュー(ニンゲン族)」

「皆様が推測した結果、私は『エルフ族で先祖返りの超長命種のアリスさん』という事になってます」

「なんでアリス?」

「拾っていただいたご先祖様がお年を召し、名前が出てこなくなった結果、そのように……。そのまま個体名として使用しております」

「……そうか」


 まぁ、アリスがそれでいいならいいか……。


「あ、俺の名前はヴァンメルクだ。以後メルと呼ぶように」

「かしこまりました、メル様」


 ぺこり、とお辞儀をしたアリスの所作は流石200年というべきか、綺麗なものだった。


「魔力供給はどうしていた?」

「メル様との繋がりが希薄になったと判断し、外部接触として食事を頂いております。足りなければ夜中にこっそり魔物を狩って魔石を食べれば大丈夫でしたので」

 

 ワイルドだな……。

 いや、臨機応変に出来るのはいいことだし、アリスの能力だろう。


「今までご苦労だったな。褒美としてコーヒーカップ半分ほどの血を取らせる」

「ありがたき幸せ」


 俺は空間収納から解体用の刃渡り5センチのナイフを取り出し、人差し指をざっくりと切りつけた。

 それをアリスの前に持っていけば、アリスは血の滴る指をぱくりと口に含んだ。


「ちうちう……」

「……」

「ちうちう……」

「……おい……」

「ちうちう……」

「おい、もう規定量行ったよな? なんでずっと吸い続けてるんだお前……」

「……ちう」


 くっそ、口から離す瞬間思いっきり吸われたわ。

 指先がじんじんしたじゃないか。


「余剰魔力としてストックするためです」

「……そうかよ……」


 長い事放置した手前、強くは出れない……。


「では200年の間のデータを貰えるか?」

「はい、こちらです」


 と、アリスは小さな光る珠を作り出し、俺に渡してきた。

 きらきらと小刻みに光る珠は日本でいう所の保存用HDDみたいなものだ。

 ここにアリスの記憶と記録を指定期間分魔力で圧縮し、俺に渡せるようになっている。


「頂くぞ」

「はい」


 光る珠をごくりと飲み込み、瞳を閉じる。

 俺が日本へ転移してしまったときのアリスや他の分身体からの動揺や焦燥、絶望感なども一緒に流れ込んでくる。

 すまないな……次に会えたら甘やかしてやるからな……。


「……ふう……」

 

 十数分ほどで記録の処理は俺に定着し、各カテゴリーに分けられた。


「しかし、今の国王はほんとロクなもんじゃないな……」

「ですね。現魔王様は気にしてない様ですが」


 アリスに入れてもらった蜂蜜入りの紅茶を飲みながら一息つく。


「現魔王を倒せっていうよりも、魔族国を属国にしたいのか」

「国ごと手に入れられれば現魔王も手に入れたも同然ですし、友好の証と思ってるいんでしょうか?」

「さぁなぁ。恋愛脳なバカの事はわからん」


 まぁ、先ずはパパの言う通り、この国自体の事を学んでから旅に出るとするか……。


「ついてくるか?」


 とりあえず、聞いてみる。

 俺としてはこのままこの国で情報収集をしててもいいんだけれど。

 アリスが縋るような瞳を向けてくるのでつい……な……。


「行きます! オールワークスは伊達じゃありませんよ! 家事はもちろん、育児・戦闘・交渉までできますから!」

 

 いやそれ、オールワークスの仕事内容じゃないだろう……。

 お前、200年の間に成長したんだなぁ……。

 お父さんは嬉しいぞ……。



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