第8話◆僕んち·····?

※近況ノートに魔王エンディアとメルくんの絵姿を公開しました。 

◆◇◆



 一言いいか?

『僕んち』て言うから伯爵家とはいえ多少こじんまりとしたお屋敷を想像するじゃない?

 洋式のゲストハウスとか、神戸の英国館あたりのアレとか。

 でも連れてこられたのはそうじゃなかった。

 3階建てのヴィクトリアンハウスとかクラッシックホテルか!てな感じのがズドーンとある訳よ、目の前に。


「ぱぱーここどこー?」

「僕んちー」


 これである。

 しかも貴族用住宅地とはいえギルド本部から徒歩10分の好立地。

 城下町とは壁で隔たれているとはいえ、外周なので価値的にはには他より安く、不人気だったのもあって気前よく土地を貰ったようだ。

 2ブロック内周のおうちと比べたらにばーいにばーいの大きさである。

「君んちにもなるんだから慣れてね」

「俺んちって·····ねぇ·····」

「狭かった?」

「魔王時代住んでた家よりデカいんですよ·····」


 つっても、魔王になってからほとんど帰ってないし、そのまま異世界転移してしまったからなぁ。

 今どうなってんだろ。

 机の中にしまい込んでたお菓子、処分されたよな·····。


「家の者に紹介するからおいで」


 今度こそ確実に俺の脳内ではドナドナが流れた·····。



 ◆◇◆


 『僕んち』を取り仕切る執事、ランド・スチュワート、ハウスキーパー、メイド長、メイド長補佐、シェフ、スー・シェフ等のアッパーサーヴァント(上級使用人)十数名との顔合わせ。

 ロワー・サーヴァントになるとほとんど関わらないし姿も見せないから、挨拶はなし。

 お手伝い妖精さん扱いなんだろうな。

 軽い自己紹介と養子縁組になった経緯を話す。

 冒険者だった頃にできた子が母親の死により自分を頼ってきた、というオイオイと突っ込みしかない説明に、全員が納得し涙した。

 ·····ニンゲン、大丈夫か?


「ヴァンメルク様、私は執事のライトベルと申します。ラルとお呼び下さいませ。·····それと」


 と、40代半ばの細マッチョ系の執事が言う。


「ハウスキーパーのエレリアです、ラルの家内ですの。メル様、よろしくお願いいたします。それとこっちは·····」

「カイザです!スー・シェフしてます。2人の子供っす!」


 親子でここに務めているのか、なんか安心するな。

 ちゃんと報連相してそう。

 ランドスチュワートはハルゼルド、マスターシェフはヘナシス、メイド長はルゼリア、メイド長補佐は2人でイリアとキリアの双子姉妹。

 それから全員の名前を覚え、とりあえずはと客間に通された。

 俺の部屋はこれから用意するらしい。

 ぱぱ?ラルと何話してるの?改築業者とか聞こえたんだけど?

 三部屋ぶち抜きとか聞こえたんだけど???

 やめて!どうせ使わないから!すぐ旅にでるから!

 諸々終わったら日本に帰りたいからぁぁ!!!


「メル様、お食事の前にお風呂などいかがですか?後ほど専属メイドも連れて参ります」

「お風呂!行きたいです」


 やった! お風呂だお風呂!

 日本にいて二番目に良かったと思うものは風呂の存在だった。

 こっちでも風呂はあれど、風呂用品やアメニティの質が断然違う。

 俺の空間収納の中には風呂用グッズはばっちりですよ。

 なにせ近くに倉庫型の大型卸売店がありましたのでね。早速会員になって暇なときに見に行っては面白そうなものを買い込み、フードコートでホットドックとクラムちゃうだーとソフトクリームを食したものです。

 いつでも入れるように準備はできているというので、案内してもらう。


「あ、お手伝いは大丈夫」


 世話をしようと申し出るルゼリアをやんわりとかわし、脱衣所で着衣を脱ぐと空間収納から風呂グッズを取り出した。

 ありがとう、推し!

 貴方達のライブグッズの風呂セットが今役に立ちます!

 先月のライブで出されたご飯のお供シリーズや過去のソロキャンセットも、ライブごとに出されたペンラもきっと役に立つでしょう!

 ……なんでこんなものばかりでまともなライブグッズがないのか不思議なんだけどな……。

 俺は各メンバーのテーマカラーごとに出されたボディタオルや空ボトルを取り出して意気揚々と風呂へ入るのであった。

 用意の良い俺はアヒルちゃんの存在も忘れないのである。



 ◆◇◆



「メル様専属メイドのアリスです。『また』宜しくお願い致しますね、メル様?」


 風呂から上がり、食事を済ませて部屋でゆったりとアイスティを飲んでいたら、ルゼリアに専属メイドを紹介された。

 水色のショートボブにオレンジ色の瞳の17歳くらいの可愛いメイドさんだった。 

 ……知り合いでなければそう思っただろう……。

 うん、これは腹を括るしかないぞう……?


「ルゼリアは下がっていいよ。アリスと色々と話がしたい」

「かしこまりました。アリス、粗相のない様にね」

「はい、メイド長!」


 にっこりと笑うアリスはとても可愛い笑顔でルゼリアを見送ると、その笑顔のままこちらを向いた。


「で、何がどうなってるんですか?『エンディア』様?随分と可愛いお姿になられましたね」


 この名前で俺を呼ぶアリス……いや、エイリアスはにこにこと俺を見た。

 うん……コイツの正体は俺の分身体で名前をエイリアスNo.6という。

 俺が人間の国に潜り込ませたスパイの内の一体だった。

 



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