第7話◆名前は大事なんですよ。ええ。

◆◇◆



「あとは名前かー」


 威張れることではないが、俺のネーミングセンスは最悪だった。

 翔太郎からあるスイーツの名前を付けてみるか?と言われて三日三晩考えた結果、ほうじ茶と苺のロールケーキの名前が『ほいろ』(頭文字取っただけ)になり、会議で満場一致で却下されたことがある。

 なので、ゲームキャラはずっと『ぽち丸』で統一している。

 そのくらいアレなのだ。

 何かいいネタはないか、と部屋をくるりと見渡すと、メイフェさんが出してくれた葡萄とカレンダー。

 今日は水の日か·····日本だと水曜日·····。

 あ·····。


「ヴァンデミエール(葡萄月)とメルクルディ(水曜日)を合わせて、ヴァンメルク。愛称はメル、でどうだろうか?」

「可愛らしくていいわね!メル君」


 メイフェさんは手を合わせて喜んでくれたので嬉しい。


「決まったな。ではこの冒険者登録用紙に記入してくれ」

「はい」

「ヴァンメルク、だけでいいよ。貴族姓を入れてしまうと絡まれて面倒だし」

「そうなのか?」

「まぁ、貴族だと知るとトラブルが多くなるな。主に暗殺とか金銭関係とかで」

「面倒事は絶対にノゥ!」


 申し込み用紙にはただ、ヴァンメルクとだけ。

 職業は·····うーん、魔法使いにしておくか。

 知識オタクな魔法使いであれば色々と昔のことを知っててもおかしくないだろ。

 それにロングスタッフを武器にしておけば、払い、刺突、殴打は可能だ。

 え?杖は物理系の武器ですよ?

 遠慮なく殴るし刺しますよ?

 にゅいん、と空間収納から太陽の杖を出す。

 野球ボール程の七色水晶を核石として、固定と芯はオリハルコンを使い、まわりの部分はエルダーウィローとオルトエントを編み込んである。石突は魔鋼鉄。

 これ、INTはそこまで上がらないけれど、代わりにDEXとAGIが上がるんだよな。


「また凄いものを出したな·····」


 記入済みの用紙を確認していたオーウェンさんが呆れた声をだす。


「いいだろ。魔王時代にSランクの魔物を討伐した時に手に入れた七色水晶だ」

「今の時代だとアーティファクト扱いだよ、それ」

「そうなのか?たった200年前で?」

「それをドロップする魔物·····クリスタルリザード自体が見なくなって久しいからねぇ」

「変に絡まれないようにその杖にも偽装かけとけよ?」


 オーウェンさんの言葉に頷いて、中級程度の杖に偽装する。

 持っている武器は人ごとにカスタマイズされているので、同一規格の既製品ではない限りパッと見のランクは解りづらい。

 しかし、既製品でない時点で狙われる率が高くなるので『先輩冒険者からの払い下げ品』に偽装しとけ、ということだ。

 鑑定のスキルを持つ冒険者は少ないが、役人や少し上の立場の人間には多いと言う。

 世の中には人の物を欲しがっちゃう大きなお子さんが多いらしいからな。気をつけよう·····。


「さて、これで君はシュリではなくメルとして生まれ変わったんだけど、これだけでは足りないよね」

「ああ、この200年でどう変わったのか、確かめたい。情報が欲しい」

「なら今から僕の家に行こうか。養子縁組の書類を改めて伯爵家専用の封じ袋で出さなければならないし」


 封じ袋は封筒のことだ。

 しかし貴族専用に作られているもので、紙自体に家紋の透かしが入っていたり、蝋封をして魔法をかければ対象人物以外封を切ることが出来ない仕様にも出来る。

 貴族から王族・神殿・それに準じる役所関係者へはこれを用いる事になっている。

 俺の養子縁組申し込み書類はまず王族の元へ届けられ、封をとかれた後に然るべき役人に渡されて処理される。

 そこからまた王族の誰かの手に渡り、玉璽か王様個人の判子をポンと押されれば晴れて養子縁組は成立する。

 この間、2日とかからないらしいが、なにせオプスキュリテの称号を持った独身貴族の初養子縁組だ。

 もう少し時間もかかるし、もしかしたら呼び出しもあるかもしれない、とサ·····パパは言う。

 まぁ、呼び出されてもドンと来いですよ?

 こちとら日本で培った猫かぶりスキル優秀ですし。


「じゃあギルドマスター。僕らは一旦家に帰ります」

「おう、わかった」

「あ、セレンテスさんとルリチェさんにも家に来るように伝言しておいて下さい。メルくんに大事な役目を任せるのでそのまま護衛をしてもらうかどうするかの相談もしたいので」

「伝えとく」


 そうだな、あの二人は『シュリ』の保護者兼護衛指導員として名乗り出てくれたから、『メル』とは無関係になってしまったんだった。

 でもいい人達出し、出来れば一緒にいてくれた方がありがたいんだよなぁ。


「じゃあメルくん、行こうか。僕んちへ」

「はーい、パパー」


 多少ドナドナ感が否めないが、俺とパパは秘密の通路から外に出て、パパの住むお家に帰るのであった。

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