第4話◆事情が事情だけになぁ……

◆◇◆



 大まかな個人的事情をさらーっと要所だけかいつまんで齟齬なく伝えてみた。

 元々は200年前にこの世界に居た魔王であること。

 国王のしでかした事で俺の部下がやらかしてしまったこと。

 逆切れされて国王が召喚した勇者に歴史的には倒されたことになっているが、実は日本に転移してのんびりと生きていたこと。

 それなのに勇者として召喚され、かつ魔王を討てと命じられたこと。

 ついカッとなってステータス偽装したこと。

 ……そして、最重要な話を……。


 俺の話を黙って聞いててくれた5人は、深く深くため息をついた……。


「ろそん……素晴らしい店なんだな……」

「スイーツ食べたい……」

「酒も売ってるのか……」

「複合型小店舗とはいえ……侮れない運営力……」

「毎月の様に新商品ですか……すごいですよ……」


 そうだろう、そうだろう。

 ろそん万歳。ろそんだけでほぼ一生生きていけるんだぜ。

 娯楽や服なんかはサイトで注文して店舗受け取りになるけれどな。


「はっ!もしかしてシュリが王城で食べていたあれも……!?」

「はい。ろそんの新商品の抹茶シュークリームです。あ、これはその新商品ですが、食べてみますか?」


 と、空間収納から数々のお菓子や飲み物をだす。

 なんでこんなにため込んでいるかっていうと、推しゲーのコラボ商品のおかげである。

 対象商品を3個買うとグッズが一つ貰えるってあれ。

 全種コンプ+観賞用・保存用・使用するかもしれない用で3個ずつ買えばわかるだろ?

 5種類あるとしたら5×3×3で45個対象商品を買わなければならないのです……。

 若い体にしたとしてもすぐには食べきれないんだよ……。

 店舗限定のカップ麺や総合栄養食バーもあるが、これは俺の非常食なので……。


 ろそんのお菓子としゅわしゅわした飲み物は、皆様に好評だった。



◆◇◆



「ところで真面目な話なんですが、国王が勇者召喚した理由って何なんです?」


 芋系お菓子を食べながらペットボトルの紅茶を飲みつつ聞けば、途端にオーウェンさんとサリさん、メイフェさんは呆れたような表情を見せた。

 セレンテスさんもルリチェさんも目が泳いでいる。


「あのね、シュリ……。怒らないで聞いてほしいの」

「内容によるとは思いますけど……」

「まぁなんだ……。恋慕のもつれというか……なぁ……」

「なんだよねぇ……」


 メイフェさんの言葉にオーウェンさん、サリさんが続く。


「恋慕のもつれ……?」

「君とは逆のことが発端でね……」

「は?」


 逆……とは?


「その前に、魔族がどうなったか話そうか。無関係じゃないし」

「お願いします」


 サリさんの言葉に頷いて頭を下げる。


「君が討取られてから暫くは魔族国は元の場所にあったんだけれどね、ある日少し遠い場所に自国を拡大してそっちに引きこもっちゃったんだよ」

「へ?」


 魔族総出で引きこもり……とは? 

 ちゃんと自国警備員やってるのか?


「君のような歴代の魔王から受け継いだスキルを持ったトップが討ち取られたとなると、困るのは内政だよね?」

「あ!」

「勇者は君を討ったと確信してすぐこの国に帰ってきたんだけれど、トップが居なくなった魔族国は事後処理でてんやわんやでね。しばらくは国交も貿易も出来ないと通達があったんだ」

「……でしょうね……」


 ほぼ俺との一騎打ちみたいな感じで直線ルートでやって来はしたが、それでも戦いの爪痕は酷いものだっただろう。


「次にトップになったのは君の元右腕の魔族でね、まぁ原因を作ったという責任でつい5年前まで魔王を務めてたよ」

「生きとったんか、あいつ!」


 よし、殴ろう。


「ある程度は復興もしたし魔族の国は落ち着いたんだけれど、魔王職が切り替わった瞬間に、人間めんどくさいって引きこもっちゃったんだ」

「魔族なのにメンタル弱いな」

「その引き継いだ魔王っていうのが前魔王の娘でね?」

「まさかの世襲制」


 俺が苦労して日本に……あれ?苦労したことないな?

 それどころか小学校二年生でサブカルにハマり、中学二年あたりから翔太朗のコネで推しのライブ全通してたな?

 えーと、まぁ……うん。すまん。空間収納に中には高級な酒やら生ハム原木やらあるから差し入れするな?


「その娘さんに一目惚れして5年間ずーっとずーっと追いかけてたのがこの国の国王です」

「……」

「毎年の行事への国賓としての参加要請やら贈り物やら……。結婚もせずによくまぁやるよねっていうのが国民の感情なんだ」

「その……お互い……苦労しますね……?」

「で、去年、魔王がめでたく結婚して……」

「ブチギレたと……」


 恋慕のもつれって怖いな。

 俺の恋人は当分推しゲーの兎人のあの子でいいや。



 

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