第3話◆ちょっと拍子抜け

◆◇◇



 冒険者ギルドでの登録はすんなり終わった。

 終わってしまった·····。

 いやいや、ラノベやヨミカキでもあるでしょぉ? おい新人、お前の技量を見てやるよ、この拳でな! 的なイベントが!!

 あれから200年も経ってるんだから人間の武器の進化とか気になるじゃないですか!

 日本ですら150年ちょい前は刀の時代でそこから銃の時代になったんですよ?? これが·····人間の進化·····技術革新·····的なイベントが無かったんですよ!!

 それどころか皆めっちゃいい人過ぎて·····。


「お、新人か? これ持っていけよ! さっきオマケでもらった干し肉だぞ」

「同じ刀使いか! ちょっとまってろ、打ち粉やるよ!」

「このポーション、納品基準を少し下回っただけのやつなので良ければもらって!」


 などなど。

どこぞのMMORPG初心者の囲い込みか!? て位皆様は手厚かった·····。

 ありがとう、みなさん·····(棒)


 すんなりと登録出来てしまったので、依頼を受ける·····のは少しあとで。

 まずは情報収集。


「初めて依頼受ける前に、情報が欲しいんですけれど、ココ最近で何が変わったことはありましたか?」


 と、ギルド併設のごはん処でご馳走様してくれている先輩冒険者のセレンテスさんに聞く。

 セレンテスさんは32歳で5人パーティのサブリーダーさん。

 役割は盾師·····つまりタンクだ。

 最初、盾師と聞いて殺陣師?!と興奮してしまったのは時代劇スキーとして仕方がないと思う。

 勧善懲悪、いいよね。後腐れなくて。

 今日はリーダーの代理で素材の販売とか次の依頼を仲間で妹のルリチェさんと見に来たんだそうだ。

 新人だろう?何でも聞いてくれって声をかけてくれたのだ。


「そうだな。王城では勇者召喚が行われたが、失敗に終わったな」

「ブフォッ!」

「うわっ! どうしたのシュリ、大丈夫?」


 ルリチェさんが背中を摩ってくれたけれど、さっきの出来事がもうギルドに居た連中に伝わってるとかどういう情報伝達の速度か?!

 セレンテスさんはなぜかニヤニヤしている。


「だ、大丈夫です。勇者召喚なんて、御伽噺かと·····」


 と、誤魔化しつつ言うが、2人は目を丸くした。

 ん·····? なんだその視線は·····。


「あのねシュリ·····実はね」

「この国は大会議や重要儀式の時は公開されるのが常識なんだよ。勇者召喚は国が行う重要儀式になるので、主だったギルドでは魔道具での中継映像が流されるんだ。もし本物の勇者が召喚されたのに、主要施設の人間が顔も知らなければ問題だろう?」


 そりゃそうだ·····。

 勇者召喚しました、でもギルドも顔知りません、協力も出来なくてじゃ本末転倒だからな。


「·····あれ?」


 魔道具で·····中継·····?

 んんん·····???


「てことは、つまり·····」


 と、何となくギルドに来てから先輩冒険者方々の優しさを思い返す。


「シュリ、貴方が召喚されてから一連の行動もステータスの中身も、ここで見てたのよ·····」

「まじかー!!!」

「おう、マジだマジ。路銀ください、には感動したわ。なぁ、皆!」


 セレンテスさんが他のテーブルの冒険者に聞けば、盛大な笑い声と共に同意する声が聞こえた。

 やっちまったーーー!!!!

 誰も見てないと思ってたし、どうせすぐフェードアウトするモブ村人だし、とか油断してたわーーー!!!


「ごめんなさいね、何となく皆·····、ここに来た理由を察してしまってね·····」

「だからお前が冒険者登録してる間に、俺らが暫く保護者として行動を共にするって名乗り出た訳だ」

「ソウデシタカ·····」


 ご面倒おかけします、と頭を下げた。


「それによ、異世界から突然来たんだろ? その世界ってのが俺達と同じような場所ならともかく、違ってたら可哀想じゃねぇか」

「だから安心していいのよ。うちはバランスが良いパーティだから満遍なく学べるわ」


 うんうん、と2人は頷気あう。

 そうか·····中継かぁ·····、俺の時代にはそんなの無かったなぁ……。

 せいぜいが転移魔法の応用で手紙をやり取りするくらいだったはず。

 ·····これが技術革新か·····。

 俺も老いたな·····。


 これからギルドマスターと副マスターに紹介するから着いてきな、と言われて大人しくついて行く。

 2階に上がり、踊り場を右に行った突き当たりがマスターの部屋だった。

 ノックの後に入室許可を貰ってから入る。

 そこに居たのは初老の男と若い男、そして秘書だろう女性の3人。


「良く来てくれた、シュリ。ギルドマスターのオーウェンだ」

「副マスターのサリだ」

「ギルド員統括のメイフェよ。よろしくね、シュリ」

「終王珠理だ。シュリでいい」


 それぞれと握手して、セレンテスさん、ルリチェさんと共にソファに座る。

 メイフェさんがお茶(ハーブティー)を出してくれたので一口飲んだ。

 日本の紅茶とは違う、粗雑な味だが懐かしさが込み上げる。

 昔はこれに蜂蜜や酒、果物を放り込んで飲んでたなぁ。


「さて、シュリは勇者召喚で呼び出されたのにステータスが違う為に放り出された、で合ってるか?」


 と、あの下りをきちんと見ていたオーウェンさんは笑いを堪えながらも聞いてくる。

 他の4人は堪えきれずに笑いが漏れてるが。


「そうだな、あまりにも一方的だったのでついカッとなってやらかしてしまった。後悔はしてないし反省もしてない」


 うむ、と説明すれば、オーウェンさんは、ん?と目を細めた。

 その視線に気づいた俺はニヤリと笑う。


「隠蔽·····か?」

「いや、偽装だな。保護付きの」

「?!」


 少しここで説明をしよう。

 スキルの種類によっては保護がかけられる。

 まぁその保護ですら保護付与スキルがないと出来ないんだが、俺はほら、先達が地道に積み上げてくれたやつがあるので·····。


「保護付与だって? 喪失スキルじゃないか!」

「は?喪失スキル???」


 思わず叫んだサリさんに反応する。

 喪失スキルてなんぞや??


「シュリ、貴方そんなスキル待っていたの?」


 ルリチェさんもびっくりしてる。

 驚かれた俺もびっくりしてるんだけどな?


「喪失スキルというのは?」

「あ、ああ、そこからだな」


 オーウェンさんは俺の疑問に答えてくれた。


 この世界にはいくつか喪失・遺棄・封印スキルがあるらしい。

 喪失スキルは受け継ぐ者が居なかったりここ100年単位で持っているものが現れなくなったスキル。

 遺棄スキルは神様なんかが神託で「このスキルとこのスキルは効果が重複してるのでこっちに統一しますよ」となったやつ。

 その場合、一括で書き変わるらしい。運営がんばってるな?

封印スキルは人間が持っていると精神壊してヤバいので消しましょうね、はいこれあげる、と神様からスキル消去の魔道具の下賜と共に指定されるスキル。たまーに増えるけど詳細はギルマスしか知らないらしい。


 そして俺が使った保護スキルはだーれも持ってる人が出てこなかった為に、喪失扱いされたスキルだった。

 これあると便利なんだけどなぁ。

 状態保護の上位だし重要書類に保護付与しておけば例え捨てちゃって燃やされても戻ってくるし、ほぼ永久保存される。

 状態保護は時の流れによる経年劣化と水濡れ防止しか効果ないからな。

 それに、スキル自体に保護をかける事も出来る。

 俺がやった偽装の保護は書き換え禁止、保護された項目の閲覧禁止が適応されるので、ユニーククラスのステータス転写版でも看破・書き出しは・書き換え・削除が出来ない。


「·····シュリ。何か事情があるんだな?」


 オーウェンさんは出来るなら話してくれ、と目で訴えてきた。

 俺としても協力者は欲しい。

 それが王都のギルド本部のギルドマスターや公爵家の御落胤、優しい先輩冒険者であれば開示しないで協力を求めるのは難しいと理解している。


「少し長くなるけどいいか?一切の他言無用で出来れば魔力根源契約もして欲しいが·····」


 この世界のもの全部、魔力を帯びている。

 老若男女、草も土も風もなにもかも。

 その魔力含有率は個体それぞれだが、そのせいで魔力が無い個体はすぐ死に、低いものは生きづらくなる。

 生命の根源たる魔力を担保に契約するんだから軽はずみでできるものでは無い。

 契約を破れば1~3割の魔力上限値が削られるのだから。

 それが魔力根源契約だ。


「よし、やろう。3割でいいか?」

「ブフォッ!!」

「シュリ?!」


 オーウェンさんの即答に噎せた俺の背中を、ルリチェさんが摩ってくれる。

 いつもすまないねぇ、ルリチェさん·····。


「なぁに、話さなきゃいいだけだろ?俺もするぜ!」

「俺もだな。話さなければいいだけの契約で面白そうな話が聞けるのならやらないわけが無い」

「ギルド員統括として事情は知っておいて損はありません」

「大丈夫?お姉ちゃんにも教えてくれる?」

「ちょっとは悩んで!地元民!」


 セレンテスさん、サリさん、メイフェさん、ルリチェさんの言葉に、思わず突っ込んでしまった俺は悪くないと思うんだ·····。

 あとルリチェさん、いつのまに俺のお姉ちゃんになったんですか??有難うございます!


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