第9話「過去を思い出しました。」
『多田野ってさぁ、まじ暗いよね。』
『それなぁ~、何考えてんだろ。ねぇ~多田野さん、何読んでんの?」
『あ……。えっと、その……。』
『まともに喋れないのかよ~! ウケる~!』
ばっと本を取り上げられる。そして表紙を見る。
『何この本! 男が抱き合ってんだけど!!』
『きっも~! そんなのが趣味なの?』
違う。この人の作品は文章力が凄いんだよ。男同士はまだ……趣味じゃない。
違う。なのに、言葉が出ない。
『ねぇ知ってる? 無言は肯定。あっはははは!!』
『多田野菌洗い落とさなきゃ~!』
『それな~!』
バタバタと本を投げ捨ててからお手洗いへと向かったのだろう。
慌ててキャッチした本を抱きしめ、荷物を持ち屋上へ向かう。
屋上につけば、ごろりと寝転がりながら本を広げる。ここにはだれも来ないだろう。
そう思いながら本を読んでると、がちゃりと扉が開く音がする。
ビックリして隠れ、本を閉じる。そこには、一人の男の子がいた。
少し長い髪を揺らし、屋上の手すりを超えた。
え? なにしてるの? そう思った瞬間身体が動いた。
『町田……くん!』
くるりと彼は振り向いた。睨みつけられる、というか、人間に嫌悪した目。
涙の跡。彼はクラスの中心に立つような人物なのに。どうして――。
『あ、多田野……。』
少し目が綻ぶ。『見んなよーそんで言うなよ。』と言いながら彼はこちらに向かってくる。
どうしたんだろ、そう思っていると彼は隣に腰かけた。
『多田野また虐められたの? こんなところにいるなんて』
『……。』
『怒んないし、待つから。喋ってみな?』
『……虐めじゃない、と思う。私が悪いだけで……。』
頬を掴まれる。え、と思っていると、彼は衝撃の言葉を紡ぎだした。
『お前。本気でそう思ってんの? 多田野何も悪いことしてねーだろ。言葉を紡ぐのが下手なだけ、何をしたらいいか分かんないだけ。それだけだろ。なのに自分が悪いって下向いて、侮辱されて。悔しくないのかよ。』
『町田君……。』
『俺はお前の頑張りを知ってる。勉強だっていつも夜遅くまで教わって、運動だって自主練して。それを知ってんだ。自分を下げるな、頑張りが無駄になるだろ!』
早口でそう捲し上げた。町田君は息を切らしながら、そう言い終えると、こほんと咳払いをする。
『お前、変わりたい?』
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