エターナル・ストーン 女神が与えた魔石と、英雄になった少年

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 ある日、突然その世界に石が降るようになった。

 それはなぜか。


 理由は、


 ――女神からの祝福だった。


『弱く、儚く、脆い。そんな人間達に、生きていくための力を授けましょう』


 女神は人を哀れみ、慈悲の手を差し伸べた。


 自身の力の一部を与えたのだ。


 魔石という貴重なアイテムとして、人に特別な力を。


 しかし、魔石は少なく、そのため価値が高い。


「俺のもんだ、勝手にとっていくんじゃねぇ!」


「違う、私のものよ。私が最初に見つけたんだから!」


 魔石の存在を知った人々は、自然に奪い合うようになった。






 そんな中で偶然、一人の少年がその魔石を手にした。


 家もなく、身よりもなく、財産もない。


 そんな「何もない少年」が。

 

「なんだろう、これ」


 迷い込んだ森の中、食べ物もなく野犬に襲われて怪我をし、瀕死の重傷を負っていた少年の手に。


 その石がまるで吸い寄せられたかのように、空から降ってきた。


 女神の力を宿した魔石は特殊な力を発揮して、みるみるうちに少年の傷を癒した。


「あったかい。傷がなおってく。これって魔石なのか」


 それはどんな傷でも瞬間的にすべて癒す、治癒の魔石だった。


「この魔石があれば、色々な事ができるぞ!」


 絶望していた少年の瞳に希望の光が宿った。


 売ればたくさんのお金になる。


 しかし、それは一度きりの財産しかもたらさない。


 だから、少年は今の立場を変えるために、とある方法を考えたのだった。


「いつまでも身分も身寄りもない孤児でいるわけにはいかないからな」


 そして足取り軽く、歩き出す。







 少年はその石を手にして、闘技場へ赴いた。


「エントリーするって、お前みたいなひょろがりのチビが? こりゃ傑作だ」

「自殺志願者か? 馬鹿だなぁ。なあ、お前らもそう思うだろ!」

「がはは、悪い事はいわねぇ、怪我をする前にかえりな坊主」


 周りの参加者からは笑われたが少年は本気だった。


 闘技場では身分が低くても参加できる。


 底辺の環境から這い上がるなら、それが一番てっとりばやい方法だった。


「通常の方法では、途中棄権はできません。本当に良いんですね」


 心配する受付に少年は頷いて、準備を始めていった。


 それから少年は、辺りにいた参加者たちに話しかけて、情報を収集し、弱点を分析していく。


「よう! ちび坊主、俺に何か聞きたい事でもあるのか?」

「ああ、色々とな。教えてくれよこの闘技場での戦い方ってやつを」

「がはは、肝がすわってやがる。おまえ、おもしれーやつだな」


 そうして知恵を駆使して、参加者の情報を集めて、順調に勝ち星をつかんでいく少年。


 一撃必殺が得意な相手には、わざと調子にのらせて攻撃させた後で本気を出した。


 逆に慎重すぎる相手には、思わせぶりな行動とはったりで誘導し、自滅するようにしむけた。


 勝ち星は順調に増えていく。


 少年はある程度のところまで勝利したら、闘技場から抜けようと思っていた。


 途中棄権は原則できないが、貴族にスカウトされた場合はそうではないからだ。


 てっとりばやく金持ちの用心棒に転職しようと考えたのだ。


 しかし、その闘技場の裏の目的は、国を守るための特別な戦士を見定める試験場でもあった。


「あの少年、戦い方が面白い。こちらで働かせてみると良いかもしれないな」


 観戦に訪れていた国の王の目に留まった少年は、兵士としてスカウトされる事になった。


「と言う事で、お前は今日から兵士になるのだ」

「えっと、拒否権は?」

「国の王からの頼みだぞ」

「ないですよね」


 そのスカウトの事を教えてきた兵士は、たんたんと少年の就職について手続きしていった。


 断られる事があるなどとは、みじんも思わない様子で。


 少年はそれをみて、仕方がないなと覚悟して、その未来を受け入れた。






 兵士として鍛えられていった少年は、型破りな行動で波乱を巻き起こしつつも、めきめきと力をつけていった。


 そして一年経つ頃にはとうとう、特別な奇襲部隊の一員になっていた。


「大出世だな。一年でそんなに駆け足で奇襲部隊に配属されたのは初めてだ。これからもビシビシとしごいていくぞ」

「へぇーい。すごく遠い所まできたな俺」


 そして、奇襲部隊としてなじんだ少年に初めての任務が言い渡される。

 戦争を止めるために戦ったり、戦争勃発を阻止するというものだ。


 そのために様々な所へ向かった。


 それは長期にわたる大きな任務だった。


 物資の供給をとめるために、補給部隊を叩いたり。

 戦争の火種となる危険人物を排除したりした。

 そして、同盟国を救い出すための援軍としての行動もした。


 中でも同盟国に関するものは、かなり厳しい任務となった。


 そこは、まわりを大国に囲まれた小国。

 勝ち筋は絶望的に見えたからだ。


「どうか私達の国をお救いください、民たちには安全な暮らしを送らせてやりたいのです」

「喜んで力になります(かわいい)」


 その国のお姫様が良い人でなければ、あと可愛くなければ諦めていたかもしれない。


 拒否権ナシに少年を兵士にした王様のような人間でなかったのが、幸いな点だっただろう。

「へっくしょん。誰か噂しているな、ひょっとしてあやつか」

「まちがいなくその人物でしょうね。あいつは本当に国王様に何度も無礼な口を聞いて……、任務で行方不明になればいいのに」

「そう言うな、立場はあまりわきまえていないが、力は確かだ」







 力のない同盟国。そのままでは将来のない国。


 その国を救うと決めた少年はその小国の事を調べあげた。


 そして、多くの国が一目をおく生物、竜の生息地に赴き戦いを挑んだ。


 かなり時間がかかったが、激戦の末にその竜をを従えさせた。


 後は、独自のエネルギーを生産させた。


 開発に時間がかかるところを、他国の技術を少し拝借したりしてズルなどもしてみた。


「ぜぇぜぇ、小国の将来うんぬんに悩んでいるというのに竜と戦う事になるとは思わなかった」

「あいつはホントに型破りなやつだよな。ぜぇぜぇ、あっ傷薬が足りない。魔石の力でなおしてくれよ」


「エネルギーが多く生産できれば、国の力は大幅に上がる。確かにそうですね」

「ええ、姫様、我々鍛冶師も良い武器がつくれるよになりました」


 その他にも、宣伝に力を入れ、戦の大儀や疑問を必要な要所へを伝えたりしたし。

 時には、小国の要人に小芝居を売ってもらい、敵国の災害被災者を助けたしたりした。


「さぁ、これだけやったんだ。これでこちらに味方についてくれる人間達を大幅に増やしてやれるぞ」


 そうした積み重ねで少年は、不可能だと思われていた小国に勝利の花を持たせた。


 そこにはもはや、無力で全てを失った少年はどこにもいなかった。


 英雄とたたえられるまでになっていた。


 その英雄はやがて、思いを寄せた女性と結婚式をあげて、多くの子供達に恵まれる。


 子供達はみな、偉大な英雄を慕って幸せな生活を過ごした。


 彼等が、食べ物に困る事も、寝る場所に困る事もない。


 そして、英湯となったその少年は、自分の運命をかえた魔石を永久に守るように子孫の者達に言い含め、この世を去った。


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